20.「続。少女たちの水浴びと、少女たちの戯れ」

 森にひっそりと佇む泉の中で、三人の少女たちは、なおも水浴びを続けていた。

 透き通るような天然の湧水に、心洗われるような自然の風景。

 これほどの『癒しの空間』は、滅多にないだろう……スィーファもアンリも、すっかり満喫していたのだが。


 そんな中、ふとスィーファは泉の端に、ひっそりと体の前をひた隠すリゼを見つけるのだった。

 ……ニヤリ。スィーファはまるで玩具オモチャを見つけた猫ように、悪戯っぽい笑みを浮かべると、こっそりとリゼに近づく。


「むふふ……なーなーリゼちゃ~ん♡ そんなに恥ずかしがって、一体何を隠してるんや〜♡」


「~~~っ!!!」


 そしてスィーファは、ガバッと背後から抱きつくと、無防備なリゼの体をまさぐる。


「ひゃんっ……な、何するのっ……!」

「むふふ……せっかく裸の付き合いなんやし、仲良くしようやぁ♡ なぁ、リゼちゃんっ♡」


 明らかに手慣れた手つきで、スィーファはリゼの体を堪能するのだった。

 その度に二つの巨大な塊が、むにゅりとリゼの背中に押しつけられる。

 スィーファは全身を使って、リゼとじゃれ合い、可愛がるのだった。


 スィーファのような獣人族は、他の種族と比べ、同性同士の距離感が近い。

 よって、水浴び場で体を触り合うなどのスキンシップ……これは、獣人族の間では当たり前のように行われている、ごく普通の行為だった。

 故にこれはスィーファにとって、いつも通りの普通のスキンシップなのだが……

 慣れていないリゼにとって、一方的に体を触られるばかりだった。


 その後もスィーファはイチャイチャと、リゼにピタッとくっついて離さない。


「はぁ……♡ すっごい、すべすべやぁ……まるで、赤ちゃんみたいやわぁ。どうやったら、こんな綺麗になれるんやろ……。しかし、触り心地最高やなぁ……」


 吸いつくような白い肌に、思わずスィーファはうっとりとした表情を浮かべる。

 一方のリゼは、体をモジモジさせながら、何とか抜け出そうとするのだが……


(ま、まだやるの……? んっ、やめてっ、そこっ……恥ずかしい……さわさわしないでっ……はぁ、はぁ……むぅっ、いい加減にっ……)


 しかし、そんな過剰なスキンシップはしばらく続き……一人淡々と水浴びをしていたアンリも、流石に見かねて声を掛ける。


「こら、スィーファさん、リゼ様も嫌がっているではありませんか」

「え〜、もっと触りたい〜っ。うち、可愛い女の子が大好きやねんっ!」


 そう言って、スィーファはギュッと小柄なリゼの身体を抱きしめる。

 その瞬間、スィーファのたわわな膨らみが、リゼに最大級に押しつけられ――ぐにゅりと歪むその感触に、思わずリゼも、ドキドキに顔を赤らめるのだった。


 そしてしばらくイヤイヤと駄々をこねるスィーファだったが、やがて観念したように、しぶしぶと言った様子でリゼを離す。


(ふぅ……流石にやり過ぎよ……こんなの……)


 そしてようやくスィーファから解放されたリゼは、ホッと一息つく。

 "獣人のスキンシップ"については噂で聞いていたけれど、これほどなんて……。



 そして、しばらくして――。

 激しいスキンシップの甲斐あってか(?)、すっかり打ち解けることが出来たスィーファとリゼは、もう一人、アンリを交えて、三人で会話に花を咲かせていた。


 三人は、色々なことを話した。自分たちのこと、これから向かう王都のこと。

 そして――話題はトーヤとレオ、『二人の男の子』にも及ぶのだった。


「しかしレオくんもトーヤくんも、どっちも格好ええよなー。あんな美少年、王都にも中々おらんで? ……なーなー、二人とも、レオくんとトーヤくん、どっちが好みなん?」


 スィーファは体を寄せると、ヒソヒソ声で二人に向かって訊ねる。


「ちなみに、ウチはな、レオくんが好みやねん。……あのお屋敷でお爺さんが魔物になった時も、ウチのことを庇ってくれたし……むふふ、流石にあの時は、ウチもキュン♡としてもうたわ〜♡」


 レオのことを語るスィーファは、うっとりした様子で……そしてスィーファは、今度はアンリに話を振るのだった。

 アンリはこの手の話題が得意でないらしく、真剣に考え込む。


「……私はこれまで武道に打ち込んでいた身ですので、色恋沙汰そういったことには少々疎い所があるのですが……そうですね、武人としては、トーヤの方を好ましく思います」

「へー、そうなんやー、アンリっちはトーヤくんの方が格好ええんやな〜♡」

「……はい、剣一本で魔物に立ち向かう様は、とても格好いいと思います」


 アンリは朗らかな笑顔を浮かべて、スィーファに向けて答える。

 トーヤくんの、戦う姿……確かにその点に関しては、リゼも同感だった。

 この人とは、なんだか趣味が合う……リゼはアンリに、親近感を覚えていた。


「それで……リゼっちの方はどうなん? どっちとも仲が良いみたいやけど……」


 最後にスィーファは、リゼに話を振る。そしてリゼは、少し考えるのだった。


(……トーヤくんのことは、やっぱり、好き、だと思う……。でも……エレナのことも、友達として好き……)

 

 そして、リゼは答えるのだった。


「私は、二人とも好き。トーヤくんも、レオエレナのことも……」

「へぇー、リゼっちは、二人とも好きなんやぁ……むふふ、見かけによらず、リゼっちは小悪魔やなぁ♡ あかんでー、男の子をもてあそぶなんて♡」


 そしてスィーファは、なかなかやるやん♡という視線を、リゼに向ける。

 意外な反応に、一瞬困惑するリゼだったが、やがて納得するのだった。

 ……そっか、スィーファはエレナが女の子だって知らないから、こういう反応になるんだ。


 でも、今から話を変えたら、色々怪しまれるだろうし……

 結局リゼは、このまま話を合わせることにした。別にトーヤくんが好きなことも、エレナが好きなことも、嘘ではないわけだし……。


(それにしても……。エレナ、上手くやってるかしら……)


 そしてリゼは、森の向こう、もう一つの泉の方へと視線を向け。

 少し前に背中を押した、別行動のエレナに向けて、思いを馳せるのだった……。

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