其の三・とある予言者の話(元桑068・蒲牢)
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人の守護神となった龍の子供たちは、様々な力を持っていた。でも神が人の世界に干渉しすぎるのは良くないから、それぞれの力を人に託して、守護神たちは皆を見守る事にしたんだ。
声の主は語った。
「予言する神様もいたのに、皆がバラバラにならない未来を選べなかったのかな?」
子供は首を傾げて聞いた。
じゃあ、とある予言者のお話をしましょうか。
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その昔、地上の世界には恐ろしく強い獣たちが生息していた。
人喰いの獣たちを退治するために、人々は龍神様に祈りをささげ、様々な力を与えられた。その中には、未来が見える予言者もいた。
予言者は、夢を通じて未来の出来事を見る能力を持っており、龍神様のお告げを伝える
だが、予言の力には制限があった。一夜の夢では二、三年先の未来しか見えず、一人の人間の未来は一度しか見られないのだ。
そんな予言者の元に、方々からの使者らが訪れた。
一人目は新しくできた国の宰相だった。彼はなかなか跡継ぎに恵まれない国王に子供はできるかを聞きに来た。
ご安心ください。元気な男の子が生まれてくるだろう――
予言者は夢で見た未来を告げ、宰相は喜んで帰った。
二人目は凄腕の大工だった。彼女は土砂崩れに悩まされる村の為に、どこなら土砂崩れを防げるかを聞きに来た。
ご安心ください。北側に築かれた壁がそれを防いでくれるだろう――
予言者は夢で見た未来を告げ、大工は急いで帰った。
三人目は博識な知恵者だった。彼は周りの人たちに理解されず、いつか自分が認められる日が来るのかを聞きに来た。
ご安心ください。皆はあなたに跪き、一国の王と認めるだろう――
予言者は夢で見た未来を告げ、知恵者は喜んで帰った。
四人目は絵描きが好きな子供だった。いつか親に反対されず、自由に絵を描いていけるかを聞きに来た。
ご安心ください。あなたは今まで見たこともない素晴らしい絵を描き上げるだろう――
予言者は夢で見た未来を告げ、子供は喜んで帰った。
五人目は天涯孤独の戦士だった。彼は死ぬ前に家族を食い殺した獣を探し出せるかを聞きに来た。
敵討ちはやめなさい。あなたはその獣との激戦の末、相討ちで死ぬだろう――
予言者は夢でみた未来を告げ、戦士は黙って帰った。
時が流れ、予言者の見た未来は現実となった。
宰相の国の王様に、元気な男の子が生まれた。しかし赤子を産んだ妃は難産で死んでしまった。彼女は宰相の実の姉であり、宰相は悲しみに暮れた。
大工は頑丈な壁を築き、村を土砂崩れから守った。しかし壁に阻まれた土砂崩れは隣の村に流れ込み、多くの死者が出て、大工は人殺しと罵られた。
知恵者は皆に敬われる王様となった。しかし彼が王になるために奔走している間に、年老いた恩師が無知な人々によって獣への生け贄に捧げられ、命を落とした。
絵描きが好きな子供は絵描きになった。口うるさい親が事故で死に、描くことを反対する人がいなくなり、絶望した子供は絵に縋るしかなかった。
全て予言通りだが、人々は感謝するどころか、予言者がおぞましくて仕方がなかった。予言者のせいで未来が歪んでしまった、と感じた人々は予言を携えて帰った使者らまで罪人と見なし、追放した。
予言者は罪人らを連れて荒野をさまよった。自分の持つ力に悩み、自分の存在意義すら見失いそうだった。
その時、彼らを護衛し、怒る人々から守った傭兵団がいた。
傭兵団を組織したのは死の預言を言い渡された戦士だった。自らの死期を知った戦士はより多くの人を救うために傭兵団を組織し、果敢に戦い続け、宿敵との交戦で凄烈に果てたが、その遺志を受け継いだ傭兵団は今も獣から人々を守っている。
恐ろしい結末を知ってるからこそ、今はまだ死ぬ時じゃないと分かる。恐怖は足掻く努力に繋がり、絶望こそ生きる糧になる――
戦士は生前良く語っていた。
予言者は悟った。
幸せに浮足立てば、いつかは転んでしまう。希望に浮かれれば、いつかは沈んでしまう。
では、これからは凶事だけ予言しよう、災いだけ伝えよう。
例え忌み嫌われようと、それこそ、人々がより遠くへ進める未来へ繋がるだろう。
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予言の神――
声の主は締めくくった。
「でもさあ~二、三年先の事しか分かんないじゃん、未来を見るチャンスが一回だけなら、もったいなくて使えないよ」
子供は大きなため息をついた。
だから「知らぬが花」と言う諺があるのかもね、と声の主は笑いながら相槌を打った。
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