其の二・とある龍の子供達の話(元桑001)

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「龍神様って、結構太っ腹だよね、獣たちにいじめられてる人に一気に九人も子供を遣わすなんて」

 子供は感想を述べた。

 まあ、人間に一人息子しか遣わさなかった神もいるけれど、世界中の神々の話を見れば、そう珍しいことでもないさ、と声の主は説明する。

「確かに、多いほうが話もたくさん作れて面白いよね」

 子供はすんなり頷いた。

 では、前にした神様のお話の続きでもどうかな。

「世界を作った龍神様のお話?」

 続きがあるんだね、と子供の声は一瞬にして上機嫌になった。

 じゃあ、龍神が作り出した子供たちのお話をしましょうか。

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 世界を作った龍神は、色んな生き物を作り出した。

 軽やかに空を飛ぶものや、力強く野原を駆けるもの、素早く海を泳ぐもの、みな生きるための特技を持っている。

 だから何も持たない「人」が自分に祈りを捧げていると気付いた龍神はびっくりした。翼も、爪も、鰭も持たない生き物が、どうやって生きて来れたのだろうか。

 色んな獣に狙われ、恐怖の中で必死に生きている人が不憫で、龍神は九つの子を作り出し、守り神として人に授け、後に長い眠りについた。

 子供たちの名前は、囚牛しゅうぎゅう睚眦がいさい嘲風ちょうふう蒲牢ほろう狻猊さんげい覇下はか狴犴へいかん負屓ひき螭吻ちふんという。

 龍の子たちは、力を合わせて獣たちを追い払った。どんなに強い生き物でも、神の子には敵わない。守り神の力を恐れた獣たちは、遠くへ逃げていった。

 さて次は、人々が安心して暮らせる国を作ろう、と龍の子らは考えた。

 しかし、どんな国を作ればいいのか、龍の子らの意見はバラバラだった。


「いつまでも戦いを繰り返しては幸せにはなれない。高く厚い城壁を築いて、その内側で人だけの国を作りましょう」

 囚牛しゅうぎゅうは言う。

「いや、獣たちはいつだって牙を研いですきを狙っている。人たちに戦い方を教え、獣たちを徹底的に負かして、この地すべてをもって人の国としましょう」

 睚眦がいさいは言う。

「生きることは受け継ぐことです。戦いよりも、まず生きるための知恵を伝えていかなくてはなりません」

 負屓ひきは言う。

 皆それぞれの言い分があって、誰も他の兄弟たちを説得することはできなかった。


「ならば、それぞれの国を作るしかありません」

 そう結論付けた狻猊さんげいは、率先して国を作った。火をつかさどる狻猊さんげいの国は、人々に鍛冶をはじめとする技術を教えた。

 それに倣って、囚牛しゅうぎゅうも国を作った。険しい地に堅牢な城壁を立て、心の余裕を持てた人々に音楽をはじめとする芸術を教えた。

 戦に長けた睚眦がいさいは傭兵の国を作り、家族を獣たちに奪われ、復讐を誓う人たちに戦い方を教えた。

 正義感の強い狴犴へいかんは、自ら戦を引き起こそうとする睚眦がいさいを批判し、弱い人も強い人も平和に暮らせるよう、法の整った国を作った。

 温和な負屓ひきは獣たちとの衝突を避け、辺鄙な地に国を作り、知恵で少しずつ環境を良くし、自然の仕組みをはじめとする知識を教えた。

 他の兄弟たちを慕っていた末っ子の螭吻ちふんはどの国へも行きやすい河口で、水をつかさどる力で川の氾濫を抑えつつ、稲作に向いた国を作った。

 その一方、温厚な性格の覇下はかは城壁を立てたり、逆に獣たちを狩ろうとする兄弟たちの行動に戸惑い、自分には果たせない役割だと言い残し、人の守り神の座を降りた。

 自由気ままな嘲風ちょうふうは、国という型に縛られることを嫌い、目先の獣ではなく、もっと大きな世界を見てみたいという人を連れて、海の向こうへ渡った。


 龍の子たちのそれぞれの国に、人は集まった。最後には、海を渡ることができず、国にも属せない流浪の人々が残り、予知能力のある蒲牢ほろうは、彼らの守り神となった。

「予知の力があっても、私は兄弟がばらばらになってしまうことを止められませんでした。これは国を守れるほどの力ではないが、住処を持たない人々に片時の安らぎはもたらせよう」

 流浪の民を率いて、果てしない草原を歩み始めた蒲牢ほろうはそう言った。

 進む道が変わっても、人の幸を祈る気持ちには変わりはないのですから。


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 これでおしまいです。

 声の主は締めくくった。

「……名前が多すぎて覚えられない」

 むすっとした子供の声を聞き、そりゃ一気に九人も登場すればキャラ付けは追い付かないもんな、と声の主は笑いをこらえながら応えた。

「それに、なんかお話が難しくて面白くないもん、途中で訳が分からなくなっちゃった」

 子供は頬を膨らませて抗議した。

 退屈させてしまってごめんね、龍神様が司るこの世界にできた国を紹介しようとしたら、詰め込みすぎたかな、と声の主は反省の意を示した。

「えっと、けんかして別れたことだけは分かった。龍神様は子供たちのわがままに呆れて眠りについたのかもしれないね」

 仲よくすればいいのに、と子供は残念がった。

 では反省点を噛みしめて、今度からは個人に絞ったお話をするから、乞うご期待っということで、と声の主は微笑んで答えた。

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