幕間・神血の業(元桑655~元桑666)
**************************************
人はか弱い生き物だった。それゆえに龍神に助けを求め、力を身に着けた。
力があれば欲しい物がいくらでも手に入ることに気付き、人は際限なく力を求めた。
神の力が強くなるほど、その継承者は理性に欠け、人の道を踏み外す傾向はとっくの昔に現れていたが、どの国も力の誘惑に勝てず、執拗に追い求め続けた結果、分不相応な力を手に入れた王たちは、我欲のために大陸を戦火に巻き込んだ。
侵略や内乱から逃れた国は一つもなく、血に飢えた王様たちに対抗できる勢力もおらず、人々は国土が日に日に沈んでいくのを見ているしかなかった。
転機が訪れたのは、
侵略軍を仕切る
王族らは命に別条がないものの、体からあざが消え去り、神から授かった力を失っていた。
その直後、謎の団体が名乗りを上げた。
人は神の力に憧れ、貪欲にもそれを我が物にしようとした。身に余る力が理性を喰らい、情けを蝕み、あざとなって人の身に呪いの証を刻んだ。
今こそ思い出してほしい。神より授かったのは、助けるための力であり、蹂躙するための力ではない。
私たち「
奉還隊の噂は瞬く間に国々を駆け巡った。
特別な術式を用いて、あざ持ちの体を傷つけずに、神の力だけ取り出して封じるその儀式は、「
奉還隊の創設者は何者か、誰も知らなかったが、肉体を傷つけず、内なる力に直接干渉する術式から、大昔に玉座を追われた
取り上げるのは神の力のみで、命は決して取り上げない――
それが龍神様の力は共に生きるためにあると説く奉還隊の、曲げないこだわりだった。
最初に手を組んだのは
次に
更に
魂剝がしで取り出した力は、定められた器――信仰を集めた宝や捧げ物など――に封じこむ必要があるが、両国の王の力を封じるだけで、大陸中からかき集めた器はほとんど使い切ってしまった。
二柱の神の力を一身に備えた
そこで打開策を持ちかけてきたのは、あにはからんや、宿敵である
獣たちは
我々の楽園を提供する代わりに、地上の世界に我々の
それが獣らの交換条件だった。
長い道のりを経て、紛争の時代はようやく終焉を迎えた。
国々のあざ持ちの力を封じた後、奉還隊は隊内のあざ持ちらの魂剝がしを行い、解散した。
血統至高主義だった国々の政治構造が大きく変わり、王の権限は大幅に削がれた。
そして人を襲わないことを条件に、六つの国に続き、七つ目の国――獣の国が地上に誕生した。
神の力を追求するあまり、危うく自ら蒔いた火種に飲み込まれかけた人々は自戒を込め、この時代の出来事を「
**************************************
「二つ目の峠はこれにて一段落……と」
長めのため息をふーっと吐き出す。
「堕神の乱に比べて、結構ギリギリ乗り越えた感あるよね」
記録の紙を覗き見ながら感想を言う。
「異種族の敵があれば共同戦線を組みやすいけど、人同士がかち合ったらこんなもんだよ」
肩を竦めながら答える。
「では勝因は何だろ?力を持ちすぎた
揚げ足を取るように、意地悪を込めて聞き返す。
「……どんな犠牲を払ってても殺さずの信念をバカみたいに貫いた愚か者に味方した愚か者が沢山いたことが、勝因だ……と、言いたいかな」
綺麗事過ぎて、自分で言いながらも恥ずかしく感じ、結局微妙に自信なさげな口調で締めくくることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます