其の四十八・とある鍛冶屋の話(元桑602・狻猊)
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守護神の力をより強く受け継いだ人ほど、体にはあざに似た模様が浮かび上がると知った国々は、競ってあざ持ちの者を王にした。こうすることで神のご加護が一層強まり、国もどんどん強くなると信じて。
声の主は説明した。
「じっさい、それぞれの国が強くなっていったの?」
子供は首を傾げて聞いた。
それぞれの国は、自分たちの特性を生かし、様々な分野で目を見張るような成果を上げ続けが、あざ持ちが出始めてから、欲張りが過ぎて、徐々に歪んだ方向へ進んでしまったんだ。
じゃあ、とある鍛冶屋のお話をしましょうか。
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――命は祝福の中で始まり、祈りの中で終わる。
魂は空から舞い降り、土の中で眠りにつく。
土に眠る者は花となり、光の橋を渡って空に昇る。
そこからもう一度、旅路は始まる――
旅芸人が町を訪れた日、
それはとても不思議な歌で、気づけば少年は仕事も忘れ、それに聞き入っていた。
旅芸人は一つの場所にとどまることはなく、芸を披露して路銀をもらったら次の町に行くのだが、この時ばかりは仲間の病を治すために、数日間町にとどまっていた。
旅芸人の中には自分と年の近い少女がいて、鍛冶屋の少年は彼女と仲良くなった。
「人が死んだら花になって空に戻るって本当?」
少年は少女に歌のことを聞いた。
「本当よ。誰かが死ぬと、天の御使いが迎えに来るの。死んだ人の肉体を眠りの土地に運び、魂は花となって戻ってくるの。そしたらみんなで今までありがとうって伝えて、空へと昇っていくの」
少女は答えた。
「その花を見せてくれる?」
少年は目を輝かせて聞いた。
「だめよ。魂の花は天に帰るものなの、誰かが持ってていい『物』じゃないのよ」
少女は首を振った。
旅芸人の仲間の病は重く、数日でなくなってしまった。
少年はこっそりと、町を離れる旅芸人の後をつけた。どうしても死んだ人が花になるのを見たかったのだ。
旅芸人の一行は山に入り、死者を弔う儀式が始まった。
祈りの歌に続き、旅芸人の長が、笛のような楽器を吹き始めた。
木の葉をくすぐるような音は森の中を滑り、軽やかに月夜に上っていくようだった。
しばらくすると、その音に応えるような鳴き声がどこからともなく聞こえ、それにつられて森の闇に目を凝らした少年は、恐怖に身を竦ませた。
人よりも大きな鳥が、翼をたたんで旅芸人達の前に降り立った。
闇に溶け込むような羽色に、血がしみ込んだような真っ赤な嘴――それは紛れもなく、災いをもたらすと噂され、町の人々から恐れられている「魔物」であった。
しかし魔物は旅芸人たちに襲いかかるわけでもなく、死んだ人を背中に乗せ、飛び去っていった。
まるで本当の天の御使いのようだ、と少年はぼんやり思った。
夜が更け、少年の手足が寒さで凍えてしまいそうな時、再び羽音が聞こえ、ひらりと一輪の花が舞い落ちた。
旅芸人たちは花を丁寧に土に植え、口口に故人への感謝を述べてから、その地から去った。
僅かな月明かりに照らされ、涼やかな銀色の輝きを放つ花は、本当に人の魂でできているようで、それに見入った少年は、花をこっそり持ち帰った。
しかし、窓辺に飾られた花は朝日を浴びた瞬間、チリリンと澄んだ音を立てて崩れ、やがて一握りの銀色の粉と化した。
花の形が失われてもその輝きは美しく、目を離せなかった少年は考えた。
「今度の鍛冶にこの粉を入れたら、美しく輝くものが出来上がるかもしれない」
何年もの月日が流れ、旅芸人の一団が再び町を訪れた時、鍛冶屋の少年は立派な青年に成長した。彼の鋳た道具の美しさと頑丈さは右に出るものはなく、わずか数年で町一番の鍛冶屋となった。
夜中まで続いた宴はいつの間にか静かになり、かすかな笛の音も、鳥の羽ばたくような音も、寝静まった町の人々の耳には届かなかった。
その日を境に、青年を含む屋敷の人間と旅芸人の一団は、全員煙のように消え、以降、誰も彼らの姿を見ることはなかった。
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声の主は締めくくった。
「花を運ぶ鳥かぁ、もしかして願い鳥の子供だったりして」
どこかでちゃんと生きてるようでうれしい、と子供は嬉しそうに頷いた。
鳥さえいなければ、旅の一団は鍛冶屋に目を付けられることもなかったのかもしれない。それぞれの居るべき場所を間違えなければ、悲劇は起こらなかったのかもしれない。
「でも煙のように消えたってことは、誰も死んでるところを見てないことでしょう。本当に願い鳥だったら、旅の一団を安全な場所に運んで、月光花の粉を欲しがってる青年だけ、月光花の咲く場所に連れて行ったと思う」
ちょっとマンネリだけど、因果応報、大団円だね、と子供はにかっと笑った。
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