断章 夢を壊した日(1)
その日は朝から熱っぽく、体中がだるかった。学校へ行ったはいいものの、体調は悪化の一途。保健室へ行くと、入室一番、渡された体温計はすぐに38度を知らせていた。
早退許可が下りたので、ふらふらと下校する。両親は共働きなので迎えはこない。養護教諭は難色を示したが、家が近いので許しが出た。
コンビニでスポーツドリンクと栄養ゼリーを買い込み、自宅に帰りつく。
玄関ではさっき鍵を閉めたばかりの扉に向きなおる。今日おろしたばかりの真新しい靴を、申し訳程度に端に寄り、先端を扉に向けた状態で脱いだ。
二階の自室床へ乱暴に鞄を落とし、スポーツドリンクを飲む。
制服のジャケットとセーターを脱いで、面倒くさくなってベッドに潜りこむと、すぐに寝てしまった。
このまま親が帰ってくるまで夢の中――だっただろう。普通なら。この日は勝手が違っていた。
夕方、ふっと目が覚めた。汗でぐっしょり濡れていたシャツは湿り気を残している。身震いして、シャツとスラックスを脱ぎ、部屋着に着替えた。
寒気がしたから起きたのか。――いや。
人の気配がする。
性格には、くぐもった声と押し殺したような声が聞こえる。少なくとも、二人分。
泥棒?それにしては、歩き回るような音はしない。
熱は寝る前よりも下がっている。
よせばいいのに、そっと部屋の扉を開けて、抜き足差し足、声のする方へ近づいた。
興味があった。
危険なんてないとタカをくくっていた。
事実、声は兄弟の部屋から聞こえてきていた。聞き慣れた声と、女の子の声。
閉め忘れた扉の隙間から、姿が見えた。兄、そして彼女。またはそれに近い関係性の同級生か。兄と同じ制服の女子高生が、兄に腕を回され、首元に顔を埋められていた。
恥ずかしそうな、それでいて受け入れているような顔。
心臓が沸騰した。自分が行為をしているわけではないのに。異性をあんな顔にさせられるなんて。自分もそうしたことを、誰かにしてみたいと。
ごくりと生唾を飲んだ。
物音を立てたつもりはない。
けれどなにかの気配を察知したのか。
抱かれていた女子高生と、目が、あった。
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