第十三話 線引き
同じ性別である男性が恋愛対象、というわけなのだろうか。
だとしたら自分も?
それは困る。
だってどう対応していいかわからない。悪い人ではなさそうだけれど、人生経験で同性から気を持たれたことなんてないし、あしらいかたなんてわかるはずもない。
ましてや一つ屋根の下にいる。どちらかがシェアハウスを出ていかなければならないかもしれない。
そんなことになるのはいやだ。とても困る。
「あ、嫌な思いさせちゃったらごめんね。文くん狙いとか、シェアハウスでいい人みつけようとか、そういうんじゃないよ。文くんとは、いいシェアハウス仲間でいたい」
困惑が伝わったのだろうか。誤解を解こうとする言葉をもらい、ひとまず安心はする。同時におまえはレンアイ対象外といわれたみたいでどうしてだかもやっともする。自分は男性が恋愛対象ではないのに、好かれたいと思う欲が肥大化している。企業から認められないから、余計に他人から認められたくなっている。
「あ、はい」
「自分の恋愛対象が女の人じゃないかもって思い始めたのが、寮で暮らし始めてすぐでさ。同じ年の男がそれなりにいて、食事も一緒、風呂も一緒。誰かをどうこうしたいわけじゃない、ただどきどきがとまらない。他人がいるストレスかとも思ったけれど、お風呂場で自分の体を見られることを恥ずかしいと思ったり、誰かの体を見て興奮しそうになったりする。ちょっとまずいなって思って」
一気に語ると、真弓はふうと息を吐いた。
「一旦、自分を見つめなおしたかったんだ」
笑いながら、真弓は痛みをこらえたような顔をした。分かってはもらえない。そんな諦めを含んでいた。
「俺も……」
この人になら、話してもいい気がした。
誰にも言えなかった悩みを。
「不感症って、いうか。そういうことに興味がわかないっていうか、反応しないっていうか」
今まで男友達と話していても、さらりとかわしたり、適当にあいづちをうっていたり。
「俺は恋愛対象は女の子で、それは確かなんです。でも、今は彼女とかいないけど、将来どうなるんだろうとか、そういうことは、考えます」
「……そっか」
慰めも励ましもない。ありがたかった。
分かられたくはない。分かって貰えない。当事者でなければ。
だから似ているような境遇の真弓に打ち明けたのかもしれなかった。
同じではないけど、一人ではないと知らせるために。
「お互い、見つけられるといいね、糸口」
解決の糸口。
真弓大我は、今の自分が不明瞭だから、自分を見つめなおしたいといった。つまり自分を知る、乱暴に言えば原因を知りたいのだ。
翻って、龍野文貴は、原因は自分で推測できている。だから今の不感症の結果があると分かっている。ただし、わかったところでどうしようもない。
解決しようのない問題だ。
「……そういえばさっき雪野さんから、私は脱ぎがちだけど気にしないでって言われたんだけど、どういう意味かな?」
文貴は頬をひくひくとさせる。
「言葉通りの意味です」
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