第51話
終業式は恙無く終了し、今は生徒たちが各教室に戻りホームルーム中。
体育館のステージで校長が言ったことと同じようなことを担任が繰り返す。
夏は大胆な気持ちになるから不純な行動は慎むようにと回りくどい言い方をしているが、もっとストレートに言えばいいのに。
ナンパされてイケメンだからって軽い気持ちでやっちゃうと後で泣きを見るのはお前だぞ、とかナンパした女は美人局で金巻き上げられてボコッボコになるのはお前だなど頭の悪い生徒にはそれくらいで丁度いいと思うぞ。
まあ、そんな様な目に合うのはクラスの一割ぐらいだと僕は目論んで入るけどな。クラスの九割無事なら御の字か?
さて、通知表も貰ったことだし学校にはもう用事はないからさっさと帰ろう。
昼にすべてが終わり解散なんて、家まで炎天下を地獄の行進となりそうだけど今日はパス。もう、暑すぎるのでバス。
家に帰ってから瑞穂にご飯を作ってもらうのは申し訳無さすぎるので、バスの乗換えで駅前のハンバーガーショップのマッコでハンバーガーでも食べようかと思ったのだけどみんな考えるのは同じなようでマッコはうちの学校の生徒でいっぱいだった。
考えることは一緒か。
「いっぱいだな……」
「私、帰ってからお昼ごはん作っても良いんだよ?」
「いや、瑞穂が毎日頑張ってくれているからたまには休んでもらえたらと思ってのことだから……」
「きゅぅんっ♥ もう、そうやって嬉しいこと言ってくれるなんて貴匡くんのえっち」
「? えっちは違うだろ? あ、ちょっと小汚い店だけど美味いラーメン屋あるからそこにしようか? 多分空いていると思うし」
駅の向こうに雷民軒と言うラーメン屋があって以前は良く行っていた。『雷』の字は『来』では無いのかと思っていたら山椒がビリビリ効いている麻婆豆腐などが自慢の逸品らしく雷で合っているんだって。
「じゃあ、僕は麻婆豆腐ラーメンにする。餃子ももらおう。瑞穂は?」
「う~ん。スタミナラーメンにんにくマシマシで、私も餃子食べる!」
家までバス乗れないじゃん。絶対に臭うって瑞穂……今晩は張り切るつもりなのだろうけど。
場合によっちゃ夜には鉄平やらゆかりが来るかもしれないんだぞ? 来るとしても、もう今日は断って明日以降にしてもらおう。
「暑い時にカーってなる食べ物を食べると漲るよね! 汗だくだくだね~」
「今日の麻婆豆腐は一段と辛いし、麻が効きまくっていたよ。口から火が出そう~」
とてもじゃないが見ていられないほど汗をかいていた僕らに店のおじさんが新品のタオルを二枚くれた。
店な名前がプリントされた薄っぺらなタオルだけど、僕たちには有り難かった。こういうサービスをやってくれるところがあの店のファンを増やすんだろうな。
さて、やはり自分でも分かるくらい臭うのでバスには乗らずに歩いて帰っている。若干日が陰ってきたのはラッキーだった。
さっきからスマホ何度もブルブルいっているが、どうせ鉄平だろう。家についてひとっ風呂浴びたらゆっくり返事をしよう。
今はまず、家につくことが大事。家に着くまでが終業式です。しらんけど……
帰宅すると直ぐにリビングの強力なエアコンを『強』にして部屋を冷却する。
冷えるまでにそのまま脱衣所で着ていた制服を全て脱いで冷水のシャワーを浴びる。
僕の後ろで瑞穂も同じ様に冷水のシャワーを浴びている。
こういう時はここが下宿宿で大きい風呂場と複数のカランがあることを有り難いと思う。そうでないときのほうが断然多いけどそれは言わない約束だ。
さっぱりと汗を流したら、半袖Tシャツに短パンという服装でリビングに移動する。瑞穂も同じ様な格好だ。Tシャツにポッチが二つ見えるのは目の毒だが、今はまだまだ暑くてそういう気にはなれない。
「瑞穂は通知表の結果はどうだった?」
キャンディアイスを咥えて、ソファーにだらけて寝転がりながら聞いてみる。
「ん? 普通かな。いつもどおり体育は3だし、古典と科学は4で他は5だった。貴匡くんは?」
「似たようなものかな。体育は4で世界史と英語が4だったな。家庭科は2だった」
なんで未だに家庭科などの教科がうちの高校は残っているんだよ。料理のときは最悪だった記憶しかない。ただ、成績底辺だった僕らが4や5の評価を普通かな、などと言う日が来るとは思わなかった。
まあいいや。通知表の写真を取って後で父親にメールに添付して送信する。一応、放置されている身だけどちゃんとやっていることぐらいの報告は怠らない。
今まで、コレと言った反応は父親から来たことは無いけれど、これだけはずっと続けている。
さて、スマホに通知がガンガン来ていたのはなんだろうな。鉄平だろうけど……
鉄平だった。
告白する前に二件『これから言ってくる』と『ゆかりが来た』というやつ。
告白後の結果報告が一件『ゆかりに告白したら、お友達からお願いしますと言われた。これってどういうコト?』というやつ。
ゆかりから見て鉄平は友達じゃなかったという衝撃の事実しか書いてない。
そこから約三〇分後に一件『ゆかりがデレてくる。むちゃくちゃ可愛いんだけど俺はどうしたら良いんだ?」というやつ。
知らねえよ……
そこから連続して何件も『ゆかりが可愛い』と入ってくる。これって彼奴等は恋人同士になれているのだろうか? お友達? もうわからない……
「ねえ、瑞穂。瑞穂の方にはゆかりからメッセージとか入ってない?」
「ん~ ちょっと待って見てみる」
ゴロゴロと転がりながらバッグのもとに向かう瑞穂。たまにTシャツの隙間から白いお腹がチラ見して、結構、いやかなりいいエロさ加減。
「えっとね。『鉄平くんとお友達から交際を始めたのでよろしくね』って意味わからないのが一件。暫くしてから、『鉄平に恋する私を許してって貴匡くんに伝えて』っていうもっと意味不明なのが一件だね」
うっわ~ めんどくせ~
引導を渡してやるとしよう。もう茶番に付き合っていられない。
僕は二人宛にメッセージを送る。
『おまえら両思いみたいなので、そのままお付き合いください。末永くお幸せに。今日中にキスまでしておけ。あと、今日はうちに来るなよ⁉ じゃ!』
返信不要の一言は忘れない。
「貴匡くん。涼しくなってきた」
「じゃ、こっちおいで。今日はゆっくり映画でも見よう」
「ダーティー・ハリー?」
「それは見ない! ダイ・ハードでも見ようか?」
「その映画はよく分からないけど、貴匡くんに任すよ」
映画を見ながらいつの間にか昼寝をしてしまったようで、瑞穂と二人タオルケットに包まってテレビの前に寝転がっていた。
ふと転がっていた僕のスマホが着信のLEDを点滅しているのに気がついた。SNSメッセージ着信ときの色とは違う。気になって画面をタッチすると『大杉貴臣』からのメール着信があることが表示されていた。父親の方からメールなど来たことは殆ど無いのに……
「なんだろう?」
何となく嫌な予感がして、普段なら放置するところなのに僕はそのメールを開いた。
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