第49話

 身も心もスッキリして期末テストに臨んだお陰で、成績は上々におさまった。


 僕は今までで最高位の学年七位で、瑞穂はこれまた最高位の一〇位を獲得した。

 上位一〇名までは掲示板に名前が張り出される。今までは僕や瑞穂の名前が張り出されていてもどこの誰だか他のクラスの奴らには分からなかったようだが、今回は鉄平やゆかりと一緒にいることが多いので目立ってしまい名前が知れてしまった。


「貴匡。目立っているのは俺達のせいじゃないぞ?」

「じゃあ、何だっていうんだ?」


「気づいていないのか? はあ……お前と瑞穂ちゃんは所構わずいちゃつくから目立っているんだよ!」

「はあ? いちゃついてなんぞしていないぞ?」


 ただでさえ陰キャボッチ同士なんだから更に陰が濃くなっていてもおかしくはないだろうに……


「本当に気づいていないの? 砂糖とはちみつを混ぜ合わせてピンクに着色したようなやつ垂れ流しているのに??」

 なんだか酷い言われような気がするが、周りにいる奴らも頷いていることから鉄平の言っていることは間違いないようだ……解せぬ。


「まあ、そんなのは良いや。鉄平、おめでとう。今回も堂々の一位だな」

「サンキュ。一緒に合宿したのが俺にも相当利いたみたいだよ」


「って、ことは。やるのか?」

「何を?」

「告白」

「え?」


 あれ? 『俺、このテストが終わったらゆかりに告白するよ』 って言っていなかったっけ? アレは瑞穂が言っていたんだっけ? フラグ。


「でも……そのつもりではいる」

 ほほう。とうとう腹をくくったのか? ゆかりも年貢の納め時だな。


「それ使い方違うからな、貴匡」

 なんでみんな僕の心をそう簡単に読むんだよ……




「たーかまさっくん!」

「お~‼ 瑞穂……にゆかり」

 二人も掲示板を見に来たようだ。


「貴匡。何そのついで感は‼ あなたはどうせ瑞穂ちゃんにしか用はないでしょうけどね! ちょっとぐらい気を使いなさいよ」

 よく分からないがゆかりに文句を言われる。鉄平、どうにかしろよ。


「まあまあ、ゆかりも許してあげなよ。合宿前の落ち込みようからすれば浮つくのも仕方ないと思うよ」

 一々鉄平は言葉に棘を仕込んできているが強ち間違いでも無いので反論もできない。ちくせう。


「ゆかりも四位おめでとう。もう少しで三賢入りだったのにな。惜しかったな」

 うちの高校では成績トップの三人を三賢者と呼ぶ風習がある。


 で、四位は……


「あいつは四天王のうち最弱って揶揄かわれるんでしょ? 知っているわよ‼ 全くっ、貴匡は最近余計なことしか言わない」


 三賢者と言っているのに突然四天王が出てくる意味もわからないけど、たぶんただのノリだろうから気にする必要は皆無。


「まあ。いいや、ゆかりだし。そうそう、瑞穂も初のトップ一〇入りおめでとう。今夜はパーティナイ‼」

 ゆかりがなぜか地団駄踏んでいるけど、まずは瑞穂のお祝いが先だ!


「ありがとう、貴匡くん! 合宿の直後あれこれ流したり吹き出したりしてけど勉強した成果は流れでなくってよかったね」

「逆に余計なものが出てスッキリしたのが良かったのかもしれないな。ありがとう瑞穂……」

「ううん、私こそありがとう貴匡くん……」

「おい! 貴匡!瑞穂ちゃんも! 私達を放っておいて学校じゃ言っちゃだめなやつと何の脈絡もない糖液白いの蜂蜜黄色いのの垂れ流し始めないでよ!」




 よく分からないが、ゆかりが怒り出すわ鉄平はため息しかつかなくなるわで収拾がつかなくなりそうだったので教室に戻ることにした。


「それで、明日で一学期は終わりで夏休みに入るわけだけど、貴匡と瑞穂ちゃんは何か予定とかってあるの?」


 一応、夏休みの宿題は七月中には終わらせてしてしまうつもりではいる。後顧の憂いは無いほうが良いからな。


「そういうところは貴匡はしっかりしているよな。尊敬するよ」

 鉄平に褒められてもちょっとしか嬉しくない。嬉しくないったら嬉しくない。


「貴匡くん可愛いね。ニヤニヤしちゃって嬉しいんだね、ナデナデ」

 ……そ、それは瑞穂に頭を撫でられたから嬉しいんだよ? だよ?


「隙きを見せるとあんた達すぐいちゃつくのどうにかならないの?」

 何をどう見たらこれがいちゃついているってことになるんだ? 服着てるし!


「もう良いよ。でさ、宿題はみんなでやらないか? それのほうが早く終わりそうだろ? で、その後四人で遊ぼうよ」


 まあ、学年一位の鉄平がいれば宿題もあっという間だろうな。合宿の時に鉄平の頭の良さはよくわかったからな。


 それにしても、何故そこで『四人』なんだ? 鉄平はゆかりと『二人』で本当は遊びたいんだろ? サマバケしたいんだろ?


(……このヘタレめ!)

(……うるさい。わかっているんだからもう少し時間をくれよ……)

(そのうち他の誰かに取られちまうぞ……)

(わかったよ……明日。放課後……)

(言ったな! ぜったいに決めてこいよ)

(ありがとう。貴匡)


「ねえ、何を男二人でブツブツ話しているの?」

 瑞穂は何となく察してくれているので口を挟んでこないが、空気が読めないゆかりは態々聞いてくる。


 ゆかりのことを話しているんだよ、とは言えないのでそっとしておいてほしいんだけど?

「明日の放課後の話だよ」

「あ、打ち上げの話か⁉ テストも終わったしいい結果も出たから本格的なやつやるんだよね? また貴匡と瑞穂ちゃんの家で良いのかな?」


 嘘はついていないので良いよね?


「良いよ。近くのスーパーマーケットで買い出しして、大いに打ち上げパーティーを楽しもうか? 瑞穂もいいだろ?」


「もちろんだよ。思いっきり乱交パーティーしちゃおう!」

「「「しないから」」」


「ソダネー」


「じゃあ、後で連絡するから」



 この夜、おばあちゃんから届いた小さな小包に驚愕の事実が認められていることを僕と瑞穂はまだ知らない。

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