第47話
今の状況を知るために模擬テストをやってみた。
散々な結果が僕にも瑞穂にも出た。
赤点を取るほどにまで学力は下がっていないものの、僕たちのマックスより半分かそれ以下のレベルに学力は落ちていることに
これを一週間の合宿で取り戻さなければならない。
僕も瑞穂も大体テスト結果の学年順位は一〇位前後をウロウロしているタイプで極端に下にも行ったことはないがその上にも行ったことがない。入学時は確かに底辺近くの学力だったが、勉強以外に時間を割くことがほぼ無かったので僕らは知らず識らずのうちに学力上位者の仲間になっていた。といっても一〇位前後が限度みたいだけどね。
学力上位組の奴らとは一体どんなやつなのかと思ったら目の前にいた。
よく考えてみれば、ゆかりは頭が良くていつも学年五位くらいの成績を取っていた。鉄平は入学時は僕とどんぐりの背比べだったのに一年生の最後には一位を取っていたのだった。
さっきの模擬テストも二人共高得点をしっかりとっていた。
勉強が出来て、スポーツも万能で、見てくれも美男美女とかいい加減にしてほしい。
それなのに以前のゆかりは僕にベッタリで、一方の鉄平はそのゆかりに片思いとか世の中よく分からないものだね。
ゆかりの方は丸く収まったのだからあとは鉄平が頑張ればなんとかなりそうなものなのだけど……
「貴匡。また余計な事考えているんだろう? 手が止まっている」
「あ、ああ。鉄平、この問題はどの公式を当てはめれば良いんだ?」
「ああ、これは教科書のここに書いてある――」
「そうじゃないよ、瑞穂ちゃん。そこはただの過去形じゃないよ」
「あ、あ。そうだよね。なんでこんな簡単なことまで間違えちゃうんだろう?」
「そうだね。過去進行形ってやつだね」
「『私が家に帰ったとき、貴匡くんはベッドでいやらしいことをしていた最中でした』みたいなやつよね」
「過去進行形で間違ってはいないけど、いろいろと違うような気がするよ?」
「浮気だもんね」
「「「そこじゃない!」」」
「では、ここまでで一旦休憩にしようね。夕飯を食べるのと風呂に入るのが済んだら、また寝る前までやるからね。瑞穂ちゃんも貴匡も覚悟しておくように」
「そうだね。二人共思いの外学力低下が著しいし、何でもかんでもピンク色にしようとするのはいい傾向とは言えないな」
「うん。善処する」
「そんなにピンクなのかなぁ~ ねぇ、貴匡くん?」
そう言いながら瑞穂は僕の腕に柔らかな双丘を押し当ててくる。
多分こういうことなのだと思う。ゆかりと鉄平が両手で頭抱えているし。
計算ドリルと漢字書き取り帳が僕たちそれぞれに渡される。
「一旦休憩って言ったじゃないか?」
「貴匡、瑞穂ちゃん。この合宿中は家でも学校ででもいちゃつき禁止よ! 禁欲生活に慣れて!」
「「ななななな……んて、酷いことを言うんだ?」」
僕と瑞穂は床に膝をつきうなだれる。
「いやいや、君たち二人から僕たちに助けてくれって言ってきたんだよ?」
そうでした。スミマセン。
「そうだった、瑞穂。この苦しみのあとには夏休みというパラダイスが待っているんだ。朝から晩まで毎日が休日だよ」
「そうだね、貴匡くん。夏休みは私も朝から晩まで頑張るね」
ん? ナニヲ?
「変わってしまった貴匡と瑞穂ちゃんが悲しいような、呆れるような……」
うるさぞ、ゆかり。お前はさっさと鉄平の思いに応えてやれ!
パチコン!★
「貴匡くんよ? 君のほうがうるさいよ?」
はい。スミマセン……鉄平さんの言うとおりだと思います。
夕飯作りは瑞穂とゆかりがやってくれるそうだ。
僕と鉄平は、風呂掃除と布団の用意などをやっていた。
「ベッドルームは瑞穂とゆかりに使ってもらうよ。シーツ類もカーテンもラグマットもキレイに洗っておいたし、消臭スプレーも三缶撒き散らしたから大丈夫だと思うよ」
「カーテン? ラグマット? それに三缶? そこまでしないと駄目だったのか?」
「ま、一応。念のためにね」
暫くは鉄平たちが住み込むので禁欲生活は実のところ覚悟していた。だから、昨夜はいつも以上倍以上マシマシの盛り盛りで……なので、朝から洗濯と掃除に大変だった。
明日は月曜日で、ゆかりも鉄平も今週はここから通学する。当然準備はしてあるようだが、足りないものなどあったらスーパーマーケットが営業している間に買ってきてしまおう。
「なにか忘れ物とか、不足しているものは無いか?」
「いや、大丈夫だと思うよ。一通り日用品含めて持ってきたつもりだから」
それなら買い物は明日の帰り道の途中でも大丈夫だな。
「そっか。じゃあ、一階でテレビを見ながら待つのも料理している二人に申し訳ないから、僕の部屋でのんびりしておこう」
「おっけ」
「なあ、鉄平」
「ん?」
漫画を読みながらのんびりと勉強でオーバーヒート気味の脳を休めている。
どうしても気になっていることを鉄平に聞いてみることにした。
「ゆかりに告白しないのか?」
「……うん」
今の『うん』はなに?
「告白しないってこと?」
「そういう訳ではないけど、時期を逸したというか。タイミングがさ、つかめないんだ」
僕が瑞穂と交際を初めてそろそろ三ヶ月近い。僕らのことをゆかりに告げてからちょうど二ヶ月ぐらいかな。
瑞穂と交際を始めたってことはゆかりに完全な別れを告げたようなもの。それまではいくら鉄平がゆかりに思いを抱いていても、ゆかりの気持ちは全て僕に向いてしまっていた。
失恋から立ち直るには丁度いい頃合いだし、夏休みってイベントもあるから今がチャンスなのかもしれないぞ。
「貴匡とゆかりって完全に恋愛的には破局しているくせに仲良すぎるんだよ。どうやって間に入れば良いのか分からねぇ」
はい、原因は僕でした。
「申し訳ない……」
「いや良いんだ。破局したからって幼馴染の仲も悪くなることなんてしなくて良いものだしさ。結局は俺の根性が足りないってことなのだと思うんだよ」
あっという間に瑞穂と深く愛情で繋がっている僕のことを凄いという。
「僕たちは互いが求めるものがピッタリとあっていたために短期間で愛情が深まっただけだよ」
「うわ~ のろけられたぁ~」
この合宿の御礼に鉄平にはゆかりとの交際のチャンスを、ゆかりには新しい恋をプレゼントって言うのも良いかもしれない。
言っても、恋愛経験の乏しい僕と瑞穂では何をやってみれば良いのかさっぱりわからなくて右往左往するだけという未来しか見えてこないのだけど。兎に角、僕らとゆかりと鉄平でいつも一緒にいるってことが最初だろうな。
今回の合宿も僕たちの学力は向上するわ、鉄平たちの愛情が深まるわとなれば一石二鳥ということになるね。
ラブコメじゃあるまいし、そんなうまい話はないか!
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