第40話

今年もよろしくお願いいたします。


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 グダグダしている内に日も沈み、夕飯の支度ぐらいはしてかないといけないなと思ったので、瑞穂に支度をするように声を掛けてみた。瑞穂は先程から珍しく自室に籠もり何かやっているようだった。手を止めさせて夕飯の支度をやらせるのは申し訳ないんだけど、家事スキルのない僕にとっておばあちゃんなき今、瑞穂が今後の頼みの綱になってしまうだろう。


 いやいや、おばあちゃんを亡き者にしてはいけないな。生きているし、元気らしいし……


「はーい。チョット待ってて、用意したら行くから台所で待っていて!」

「うん、お願いね。夕飯の用意しよう!」


 瑞穂が二階から下りてくるまでは暇なので、台所にある食料庫の中身を確かめてみる。

 玉ねぎ、じゃがいも、これは確か里芋だったはず、こっちはさつまいもだな。芋ばっかりだな。しかもじゃがいももカタチと色が違うものが三種類はある。さつまいもも同じく。これらが何という品種でどのような料理の用途に使うのかは僕にはさっぱりわからない。


 どの道僕が出来ることは指定された芋の皮をピーラーで剥くぐらいなものだ。足手まといにならない程度のスキル取得が僕の目指すところだ。


「おまたせ~」

 瑞穂が台所に来たので、食料庫の扉を閉め振り返る。


「ブフォッ‼」


「に、似合うかしら?」


 似合うとか似合わないとか以前の問題で、そんなに頬染めてはにかんだところでおかしいものはおかしいと思うぞ!


「な、なんでなんだよっ」


「え~ 貴匡くんはこういうの嫌いなの?」

「……あ、いや……嫌いでは。ないけど……ちょっと止めたほうがいいかな?」


 僕の言葉にすこし不満そうな瑞穂から目が離せないし、エプロンの隙間からちらちら見えるものに僕の目は完全に釘付けなので、まったくもって僕の言葉には説得力はない。しかも、できれば説得はしたくないような気もしなくもなくもない。


「男の人てこういうのが憧れだってネットに書いてあったから、やってみたんだけど……貴匡くんは好きじゃないんだね」


「いやいやいやいやいやいやいやいやいや……す、好きです。憧れでした……」


 誰かが急に来るかも分からないので瑞穂には服を来てほしいと思う反面、このままでいてほしいという男の性ってやつが僕の中で戦っている、のかな? ただ僕がエロいだけの気もしなくもない。たぶん正解はそれ、エロ坊主で間違いないです、スミマセン。


「ほんと? 良かったぁ~ じゃあ、服着てくるね」

「えっ? 服着るの?」


「そうよ? 貴匡くんに気に入って貰っただけで私は満足だよ。これ、今の時期じゃ結構寒いのよね」

「はは、ソウダヨネ」


 瑞穂は服を着るために再度自室に戻っていった。

(なんだかゲッソリした。ごっそりと気力を失った気がするよ……)




 この後普通の部屋着に着替えて来た瑞穂と夕飯の支度を一緒にした。僕の仕事は食器の用意と芋の皮むきのみなのは変わらずのこと。


 今晩のおかずは肉じゃが。味がしっかりと染み込むまで放置する必要があるってことで、その間におばあちゃんが本当に暫く帰ってこない場合のシミュレートと非常時の対応策を考えることにした。


「まず、おばあちゃんは短期間で帰ってくるると貴匡くんは思う?」

「いや、短期だったらこの前みたいに行き先は絶対に言うんだよね、おばあちゃん。それって瑞穂がここに来る前からずっとそうだったから変わらないと思う」


 今回は単に旅行に行ってくるとだけ言って居なくなった。おばあちゃんは旅行には何度も行っていたけど、例え忘れていても出発直前までに僕は行き先を絶対に教えてもらっていた。それが今回は行く先も伝えず、居なくなる時も顔を見せず逃げるようにスッと消えてしまった。


「昔のことだから当てにならないかもしれないけど、純生さんがまだここに住んでいたころも黙って一月ひとつきぐらい行方知ゆくえしれずになったことあるんだって、おばあちゃん本人が言っていたからもしかしたら同じ様なことになるかもね」


「じゃあ、今頃伯父さんが捜索願いとか出していたりするのかな?」


「いいや、おばあちゃんはそうさせないために定期的に連絡をいれて居るんだと思う。行き先を告げていないだけで安否不明では無いから警察は動いてくれないよ。おばあちゃんの狙いはそれ」


「うわぁ~ 策士だねぇ~」

「そうだね。それなんで前と同じでおばあちゃんが一月ぐらい帰ってこないと想定してどうやって二人で暮らしていくかを考えていこうと思うんだけど。いいかな?」


 基本的な水道光熱費等は口座引落しになっているらしいので僕たちが手を付ける必要はない。僕たちがやらなければならないのは、自分たちの身の回りの衣食と住環境の整備、って言っても掃除だけどね。


 食事、特に料理だけは瑞穂におまかせになるけど、他のことは僕もやることにする。今までも足の悪いおばあちゃんの代わりに掃除洗濯買い物等々やっていたのでこれまでと変わらないと言えば変わらない気がする。問題はお金だけど、僕の家賃をそのまま流用しても構わないと純生さんから許可が出たのでそうすることにする。二人で生活していく食費と日用品購入費用分以上はあると思うのでなんとかなりそうだ。もし足りなかったら、こっそり僕の口座から下ろしてくれば問題ないだろう。お金は使うべきときに使うのこそ大事。


「そんなことよりも――」

「えへへ……二人暮らし……同棲……二人きり……むふふふふ、じゅる」

 瑞穂が何か妄想の世界に行ったきり帰ってこない。ニヤニヤしながら偶によだれを拭いている姿には僕でもちょっと引く。


「あ、あのさ~ 瑞穂。最悪、何か緊急事態が起きた時の連絡先だけは共有しておこうよ。ねえねえ、瑞穂! 帰ってこいよ~」


「うわっ、あ。ごめんね貴匡くん。ちょっと私、気を失っていたみたい」

「うん、正気を失っていたね。とりま戻ってきてくれたのでそれだけでいいよ」


 こうしてうちの大家さんの可愛くて仕方ない孫の瑞穂と二人きりで生活することになったけど、僕はどうすればいいでしょうか!?



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次回から二人暮らし砂糖まみれ編になる予定。何も考えてないのでどうなるか???

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