第39話

間に合った?

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 翌朝、僕たちが起床した問にはおばあちゃんは既に外出した後のようで一階はもぬけの殻だった。朝食も摂った後がないので、相当早い時間に出ていったようだ。


「おはよ、貴匡くん。あれ、おばあちゃんはもういないの?」

「みたいだね~ 何時出ていったのかさえ気づかなかったよ」

 旅行先はどこかは聞かなかったな。まあ、帰ってきてからでも聞けばいいか?





 学校に行くと当然ゆかりも居るわけだけど、若干目の周りが腫れぼったく見えるけれど晴れやかな表情をしていつもどおりの活発女子になっているようなので安心した。

 しっかりと昨日で区切りを付けたんだ。僕も友達としてこれからのゆかりを応援していこうと思う。


「おはよう貴匡。なんかゆかりが変なんだけど、なんでなのか知ってる?」

 鉄平は気づいたようだけど、流石に教えるのは違う気がするのでとぼける。


「ん? 知らないな。何時もと一緒のような気がするけど?」

「そうかなぁ~」

 首を傾げながら鉄平は自席に戻っていった。


「貴匡くん、いいの?」

「いいんじゃないかな? 余計なことはゆかりも望まないよ」


「そっか。じゃ、そういうことで。私はゆかりんところ行ってくるね」

「おっけ。よろしく」

 そういうと瑞穂はゆかりのところに朝の挨拶をしにった。


 これだってすごい変化だよね。ボッチの瑞穂と陽キャなゆかりが友人同士になったんだもの。周りが目を丸くして見ているよ。いい変化が伝播していくといいな。



 特に劇的な変化は学校では起こらなかった。静かにただ確実に僕とゆかりの関係は終わっていって、新たに友人関係が始まったのだった。


 まあ、僕的には以前からとっくに色恋の関係は終わっているとの認識だったので何かが僕の中で劇的に変わることは何もなかった。それよりも帰宅した僕たちに知らされた衝撃的な事実のほうが重要だった。


「貴匡くん、瑞穂。おばあちゃんがいなくなった。但し、認知機能低下による徘徊などではなく、高度に計画された逃走、いやあれは夜逃げというものだな」


 純生さんが何だが真剣に言っているが、よくわからない。


「えっと、簡単に言うと行く先を告げずに無断外出ということでしょうか?」

「簡単に言うとそういうことになるかな?」

 おばあちゃんらしいと言えばおばあちゃんらしいな。


「おじさん。それで、おばあちゃんはどこに行ったのか本当にわからないの?」

「どこに行ったかは教えてくれないけど、元気なのは確かだ」


 どこに居るかは分からいけど、元気なのは確か。何を言っているのかよくわからない。質問した瑞穂も首を傾げてキョトンとしてしまった。


「婆さんからは三時間置きくらいで連絡が来るんだよ。飯を食っただの温泉に浸かっただのと、ね」

「えっと。それ旅行なんじゃないですか? 昨日おばあちゃんも旅行に行ってくるって行っていましたし……」


 なんだ純生さんが心配しすぎて暴走しただけなのか?


「いいや。帰ってくる気のない旅行は旅行ではなく逃亡なんだよ。今週も来週もリハビリにはいかなくてはならないのに、ね。ほとほと困った婆さんだよ」


 純生さんは疲れ切った顔して帰宅していった。

 おばあちゃん、もう少し純生さんを労ってあげてくださいよ。

 というか本当に帰ってこないつもりなのかな?






「そう言えば昨晩、おばあちゃんに耳元で何か言われていたよね?」

「あ、うん……いわれた」


「何を言われたの? というか吹き込まれた?」

「……婆ちゃん暫くいないから、貴匡くんといろんな事しても大丈夫って言われた。大きい声出しても平気だから、いっぱい可愛がってもらうんだよって」

 くねくねと身体をよじらせ真っ赤な顔しながらも嬉しそうな表情の瑞穂。


「ブッ~」

 飲んでいたお茶を吹き出してしまった。


 あの婆さん、孫に何を言っているんだ? オイコラ正気か?


 いや、待て。

 瑞穂にとっては僕と二人きりなのは好都合。

 僕にとっても好都合。


 ずっと二人でいちゃつていても誰にも見られることはないし、ましてや咎められることもない。


 ……つまり、僕たち二人はおばあちゃんの逃亡については肯定したほうがメリットが多い。




 婆さん元気で外がいい。




 純生さん。

 申し訳ないけど、僕らは消極的におばあちゃんの行動を応援します。


 結果的に動き回っているから、リハビリになっている気がするし自由にやりたいことやらしてあげても良いんではないかという思いもある。


 僕の母さん、瑞穂の父さん。

 やりたいことはもっと沢山あっただろうに出来ないひとも居る。

 出来るときに思う存分、やってみることは悪いことではないというのが僕の考え。

 この考えを押し付けるつもりは毛頭ないが、そうしたいというひとを押さえるつもりもない。



「貴匡くん、一緒にお風呂入ろうよ」

 僕が真面目に思考の海に潜っているときに、瑞穂は花畑で踊っていたようだ。


 まったくもって瑞穂はおバカ可愛い。

 けど、まだ風呂に入るのは早すぎる。日も沈んでいないし……


「お風呂入ってイチャイチャして、二階に行って……して、またお風呂入ってご飯食べてから、また二階に行って……してから寝る。なんて考えているんじゃないかな? 瑞穂」


「……貴匡くんはエスパーか何かなの?」


 とても可愛いので、瑞穂のしたい様にさせてあげたいのも山々なのだけれど、明日も明後日も普通に学校いかなければならないし、ちょっと我慢すればGWですよ? 我慢できない? なんで? GWはGWで毎日? それはちょっと………


「兎に角、暫くおばあちゃんが帰ってこないことを想定して、今後のことをしっかりと決めておかないと、僕たちだけでは詰むかもしれないよ。純生さんだって近所に住んでいるわけでもないし、毎回毎回、何かある度に呼びつけるわけにもいかないからね」

「むー むー むー 仕方ない。分かった……けど、あとで甘やかすの希望。甘やかして!」


 瑞穂は若干不満そうだったけど、あとで甘やかすことを条件にちゃんと今後を考えてくれるようだ。


 すこし腑に落ちない気もしないでもないけど、まあ、いいや。



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今年夏からはじめて書くようになり皆様にはお世話になりました。

3作目は10万PVまで行けたのは自分でもびっくりです。

ただ徐々に尻すぼみになってしまったのは経験不足の能力不足を痛感しております。


来年も少しずつは書いていく予定ですので、お付き合いいただければ幸いです。


ではみなさま、良いお年を。

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