第31話

「たっかまさくんっ」

「うん? どうした?」


「エヘヘ。呼んでみただけ~」

「なにそれ」


 瑞穂は僕から見てもそうなのだから、傍から見ても相当浮かれているように見えるだろう。


 スキップしそうな感じで僕の腕に自分の腕を絡ませて、ニコニコと楽しそうだ。因みに最初の名前呼びのクダリはもう既に三回以上やっていて三回を超えてから僕は数えていない。


「たっかまさくんっ」

「はーい」


「もう、返事だけじゃ嫌だよ。なにか言ってよ」

「瑞穂はもう浮かれまくりだね。そんなに楽しい?」


 ぷっくり頬を膨らませて怒っているぞアピールの瑞穂も可愛い。


「楽しいけど、それより嬉しいかな? 私はこの先もずっとこのまま独りだって思っていたのに貴匡王子様が私を迎えに来てくれて、そのままあんなコトしたりこんなコトしたりで……でへへ」

「ヨダレ拭いて。もう、そういうコトは外では言わないの。恥ずかしいでしょ」


「え~ じゃあおうちなら言っていいの?」

「二人きりの時だったらいいよ。おばあちゃんに聞かれたらまた覗かれちゃうよ?」


 瑞穂はなにかずっと縛られ抑え続けていたたがが外れた様に僕にベタベタに甘えてくる。二人きりのときは我慢することはないので、思いっきり甘えさせるし、僕だって甘えるつもり。僕だってベタベタに甘えたいときぐらいあるんだよ。


 瑞穂はスーパーマーケットでの買い物の様子を見ても、第三者がいるような場面では、ちょっと以前よりは緩んでいるけどしっかりとした言動がとれているので大丈夫だと思う。


「お家では貴匡くんも甘えん坊さんしていいからね。お互いに甘やかしっこしようね」


 片手はカートを引いていて、もう片腕は瑞穂にホールドされているからこの可愛い女の子を撫でたいのに空きがない!


 仕方ないので、僕は瑞穂の頬にキスをした。


「なー!! なな、何を! お外じゃだめだって言ったの貴匡くんなのに!」


「僕がだめだって言ったのはえっちなこと言っちゃだめってことだよ。ほっぺにチューはセーフ」


 僕の急な行動にあたふたと真っ赤になって抗議の声をあげる瑞穂。丁度片腕が空いたので、瑞穂の頭を撫でる。かわいい。


「ぐぬぬぬ……」

 瑞穂は文句を言いながらも頭を撫でられるがままで、気持ち良さそうに目を細めてしまう。


「貴匡くんのズルっこ。私もするからほっぺ届くようにしてよ――ちゅ」

「「でへへへ」」


 やばい。マジもんのバカップルだ。


 まさか自分が、どこか世間に対し冷めた目を向けていたボッチをこじらせて夜な夜な喧嘩に明け暮れていた僕がだよ、見事にバカップルの片割れになっているんだ。

 恋は盲目とはよく言ったもので、ほんの僅かに残る僕の冷静な部分が呆れて砂糖を吐き出すぐらいに僕は瑞穂に夢中になっている。それを言うと瑞穂の方も僕のことを王子様呼びするくらいだからそうとう視力が落ちているに違いない。これこそがバカップルなんだろうな。自分たちだけの甘い世界を作り出す異能……危険すぎる。




 キャッキャウフフをしながら歩いていくと二キロメートルの距離もあっという間だ。


 河川敷をは広くはないけど、丁度いい感じの間隔で既にBBQを始めている家族連れなどがいる。僕たちは、そんなに広い場所はいらないので、隅の方に空いていた場所にBBQセットを用意し始めた。


「今日はまだGW前だからこれくらいの人出なんだろうね。来週だったら場所は空いていないかもしれなかったね」


「ラッキーだったね。貴匡くん! 貴匡くんがナイスなタイミングで告白してくれたからこんなに気持ちいい初めて(のBBQ)が体験できるんだね!」


「ちょっと、いいかたぁぁぁ~」


 近くの家族連れのお子さんがお母様に連れられて遠い方へ行っちゃったじゃない? 勘違いですよ~ 確かに気持ちいい初めての体験は昨夜しましたけど、今の彼女の発言はそっちじゃないです、などとあのお母様には言えないので僕はただ黙って火熾しに集中しているふりをしていたよ。



 スーパーマーケットで買ったまま持ってきたので、お肉はパックのままで野菜はカット野菜でBBQセットなるものがあったのでそれらを買ってきた。非常に割高なものになってしまったけど、買って一旦家に戻って切って用意してなどやっていたらお昼ごはんに間に合わなくなってしまうので今回は目を瞑った。野菜も一つもまともに調理できない僕が何を言ったところで始まらないので、ここはお財布に物言わせて購入させていただいた。


「貴匡くんは火熾しは上手なんだね。もうしっかりアツアツの炭が出来ているね」

「まあ、おばあちゃんが炭火焼きのサバの味を気に入ったせいで、焼きサバのための火熾しは何度もやったからね。今回も塩サバ買ってきたから食べてみてよ」


 半身のサバが安かったので是非とも瑞穂に食べてもらたくサバも買ってきたんだ。


「おばあちゃんはサバ好きなんだね。だからかなぁ――」

「サバ好きってほどサバは好きではないと思うんだけど。おばあちゃんはどちらかと言うと魚よりも肉のほうが好きみたいだからな」


 カツ丼もぺろりっといっちゃうぐらいの健啖家なんだよね。


「さばさばさば、うー、さばさば、でゅっわー♪って歌っていたんだけど?」

「誰が?」


「だから、おばあちゃんが。さばさば歌っていたのはサバ好きだからなのかなって」

「多分違うよ。よくわかんないけど昔のテレビの何か、みたいだよ。それ」


 実はそのおばあちゃんが歌っていたやつのテレビ番組を動画サイトで見たけど、子供は見ちゃいけないやつだった。昔ってやりたい放題だったんだなって思いました……



「さあて、網も熱く焼けてきたから、焼いていこうか」

「わ~い‼ どれから焼くのが良いの?」


「二人きりで初めてだからわかんないけど、どれでも良いよ。美味しそうなお肉でイッちゃう?」


 奮発したから和牛の良いやつだぞ。


「なんだろう、貴匡くんの言い方がちょっとイヤラシくきこえる……」

「なんか酷い」


 そんなこんなで二人の初のBBQを楽しんだ。

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