第29話
かすみ荘の風呂は一般の住宅のそれに比べると広いし、湯船も大きい。下宿という特性からなのか偶々なのかは、僕の知る限りではない。僕とおばあちゃんの二人だった頃は、もったいないからと言う理由で湯船に湯をためることなど殆ど無かったのだけれど、瑞穂が来てからは毎日湯船に湯を張っている。
と、いうことで僕と瑞穂が一緒にお風呂に入ることは、お風呂の洗い場も湯船もキャパシティ的に何の問題もない。問題があるとすれば、僕が覚悟を決められるか否かだけなんだ。あれだけ自分からも瑞穂としたいとか言っておきながら、いざ一緒に風呂に入るってことだけでこの有様だし、瑞穂の方から一緒に風呂に入りたいと言わせてしまう不甲斐なさ。
カラカラ
脱衣所と風呂場を分ける引き戸が開く音がした。
僕は振り向けず、正面を向いたまま固まっていた。
「貴匡くん……洗ってあげる、ね?」
「ああ、あ。ありがとう、お願いいたします」
緊張して変な言葉遣いになってしまった。
「ふふ。貴匡くんだけじゃなくて私もすごく緊張しているから、一緒だよ」
「……うん」
瑞穂は柔らかいスポンジにボディソープを含ませて泡立たせてから僕の背中を洗ってくれる。
「やっぱり男の子だね。背中がおっきい」
そういうと、僕の背中にそっと抱きつくように肌を寄せてきた。
背中には瑞穂の柔らかな双丘と熱い肌の感触がこれでもかというくらいに伝わってきて、僕は言葉さえ浮かんで
「ごめんね。私も早すぎるって分かっているんだけど、もう何度も途中で止められたせいなのか、これ以上は抑えきれないの……」
耳元でそう囁かれ、瑞穂のスポンジを持つ手と反対側の手は僕の胸や腹をそっと撫で洗いして止まらない。
「女の子がはしたないって思われちゃうかもしれないけど、貴匡くんが欲しいの。私の初めてを貰って欲しい、貴匡くんの初めてを貰いたい……あっ……おっきい……はぁぅ」
触れるか触れないか、迷うような素振りで僕の腹を撫でていた瑞穂の手は、とうとう僕自身に手を伸ばして触れ、握ってしまう。
振り返ると、顔を火照らせ目がトロンとした瑞穂と目が合う。僕たちはそのまま唇を重ね貪るように舌を絡ませ、互いを吸い付くさんばかりの激しいキスをする。
「上に行こうか?」
コクンと瑞穂はうなずく。抱き合ったまま泡まみれの身体をシャワーで流す。
「先に行っているね……」
瑞穂が先に脱衣所で水気を拭き取り、階段を上がっていく。
足音が遠ざかったところで僕も簡単にタオルで水気をとり、下着一枚でリビングに置きっぱなしの赤い箱を取って、階段を上がっていった。
ものすごい緊張もするんだけれど、期待や嬉しさ。瑞穂に対する愛おしさの方が断然勝っている。
「入るよ」
「……うん」
部屋は薄暗く、古ぼけて光度がだいぶ低くなった常夜灯だけが部屋の中を照らす唯一だった。
ベッドの布団がこんもりと膨らんでおり、そこに瑞穂がいるのが丸わかりだけど、やっぱり恥ずかしいのか潜り込んでいて顔を見せていない。
「瑞穂……」
声をかけるとおずおずと布団から目だけ覗かせる。可愛い。
「きゅ」
「きゅ?」
「急に恥ずかしくなったの……早く、貴匡くんも布団に入ってきて」
「うん」
赤い箱は手の届くベッドサイドボードの上に置き、布団の中にそろりと僕も潜り込み瑞穂を抱きしめた。
「大好きだよ」
「私も、大大大好き」
瑞穂は僕の大きいTシャツを着ている。通りで脱衣所にあったはずのTシャツが無いわけだ。
「これ僕のシャツだね」
「うん、貴匡くんの匂いがしてすごく好き」
洗ったやつでも匂いするのかな?
「瑞穂が着ていっちゃったから、僕はパンツ一張でうろうろしちゃったよ」
「えへへ、ごめんね。代わりに私は貴匡くんのTシャツ以外は何もつけていないよ」
そっと瑞穂のお尻に手をのばす。
「ひゃんっ、もう、えっち」
「あはは、ごめん」
本当だ。何もつけてなかった……
抱き合ったまま雑談をしていたけど、ふと目が合った瞬間、言葉はなくなる。
瑞穂が目を閉じ、僕はその唇にそっとキスを落とす。
やがてキスは激しくなり、お互いの手は相手を求め擦り、撫で、掴み、摘みあう。
「貴匡……貴匡くん……お願い。きて……」
泣くような切なげな声で瑞穂に懇願されたけど、僕だってもう無理だ。瑞穂が欲しい。
欲しくて欲しくてたまらない。もう絶対に離さない、離したりするものか! 僕たちはずっと一緒だ。決して二度と孤独で悲しいあの場所には戻らない。
薄衣を纏わせ、瑞穂の中に。
一瞬、瑞穂は全身を強張らせたが直ぐに弛緩し、僕を受け入れる。
「貴匡くん、キスして。いっぱいキスして。いっぱい抱きしめて、そして離さないで」
「勿論だよ。瑞穂を離すなんてありえない」
出会ってからはたったの数週間。
だけど、一緒に暮らし行動を共にして笑って泣いて怒って勘違いして心配して本当の気持ちに気づいて。
((この人に出会えて良かった))
この多幸感が半端ない。さっきから幸せホルモンがドバドバ出ている感じがして仕方ない。
瑞穂も同じなようで泣き笑いしながら、大好き愛しているとずっと言っている。
瑞穂と僕は一つに繋がりながら唇を合わせた。
「痛い?」
「ちょっとだけ。貴匡くん、本当は動きたいでしょ?」
「いや、瑞穂が痛いなら我慢できるよ」
「こんな時まで気を使って嘘つかなくていいからね?」
「……はい。動きたいです。動かしたいです……」
「ゆっくりなら、大丈夫だと思うから、少しずつお願い」
「ん……わかった」
ゆっくり抜いて、再びゆっくり挿すを繰り返す。
「んふ」
「痛いの?」
「まだちょっと痛いけど……痛いのとは違う。しびれるような…気持ち…いい、かも?」
「ほんと?」
あ、でももう僕のほうが無理。保たない…………
「ああああああ……ふう」
ちょっとだけ、瑞穂が不機嫌になっちゃったけど、仕方ないよね?
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