第27話

 夕食の後片付けも終わったけどおばあちゃんは未だに帰ってこない。


 本当にダーティハリーシリーズを全部見てくるとしたら、二二時は過ぎてしまうんじゃないかと思う。おばあちゃんはいつも早寝なのでそのま富田さんちで寝てしまうんじゃないか心配だ。とは言っても迎えに行くのもおかしなものなので放置一択しかないのだけど。



 瑞穂は今、風呂に入っている。

『今日は疲れただろうから、入って疲れをとってね』

『……うん? 分かったよ、ゆっくりと入って疲れをスッキリさせるね』

 などという会話をしたあとに瑞穂は風呂に入っていった。


 そして、瑞穂が風呂に入ったのを確認した後、ダッシュでコンビニまで走っている。なので、是非とも瑞穂にはゆっくりと風呂に入っていてもらわないと困るんだ。


 いやね、無いとは思うけど念の為最大限の注意は払わないといけないと思ってさ。


 ……僕は誰に言い訳をしているんだ?




 コンビニで紙袋に入れられた四角い箱となんとなく気まずくってついでに買ってきたカップアイスをエコバックに忍ばせて帰宅を急ぐ。帰りはダッシュすると息を整えたり汗をひかせたりが大変なので、急ぎ足程度の速さで歩く。


 外から見たバスルームにはまだ明かりが灯ったままなので、瑞穂は風呂から上がっていないようだった。


 カップアイスを冷凍庫にいれて、階段を忍び足で上がり自室のベッドの陰に紙袋に入れられた物を忍ばしておく。


 いやね、ほんと、今日今から使おうなんて思っていないからね?


 でも、僕も男の子だし、今夜は今の処おばあちゃん帰ってこなさそうだから瑞穂と二人きりでしょ? だから、ね? 間違いがあっちゃいけ無いから念の為だからさ。


 あはは。


「どうしたの? お風呂上がったよ?」

「わーーーっ」

 後ろから瑞穂に声を掛けられた。


「さっきから呼んでいたのに、貴匡くん全然返事しないから呼びに来たんだけど。今誰かと話ししていた?」

「い、いいいや独り言だよ。お風呂出たんだね。じゃ、僕も入ってくるよ」


(あ~びっくりした。まさか見られてはいないよね? 心の声も漏れていないはず)




 湯船に浸かってボーッと考えてみる。


 この数週間、瑞穂と出会って僕の行動も考え方までガラリと変わってしまったと言ってもおかしくない。

 色んなものに絶望して、やさぐれてやる気のない覇気のないボッチの一高校生が一人の女の子に出会って、あっという間に恋に落ちて、イチャイチャしたりもっと先のことがしたくなったり、将来のこと考えたり……


 ひと月前の僕が今の僕を見たら、自分自身この変わりようにビックリどころか呆れてしまうかも知れない。それだけ瑞穂には魅力があるってことなんだろうな。すごく可愛いし、料理は上手だし、可愛いし。


 ……うん、僕はちょっとおかしくなっているね。自覚はしておくのダイジ、絶対。


 たわい無いことを考えていたせいでちょっと長湯をしてしまった。来週はもう五月だからか、春の陽気というより初夏を感じさせる陽気になっていて風呂上がりに汗が引かない。


「あっち~」

「あ、貴匡くん。やっと出たんだね、だいぶ何時いつももよりゆっくりだったね」


 瑞穂はリビングで旅行番組のテレビを見ている。もう来週のことなのでGW特集をやっているみたいだ。


「うん、ちょっとボーッとしちゃって長湯になっちゃったよ」

「私のこと考えていたのかな?」


「うん、そうだね。瑞穂はかわいいなぁなんてずっと考えていたかも知れない」

「もうっ、全然照れないで逆にそういうこと言ってくるなんてずるいよ」

 瑞穂は顔を赤らめてワチャワチャ文句を言ってくるが、それさえ可愛い。


「それにしても、あっつい。身体が冷えてくれないや」

「もう、私だってやっと涼しくなってきたのに貴匡くんのせいでまた暑くなっちゃったよ」

頬を赤くした瑞穂は自分の手のひらで顔を扇いでいる。


「あ、アイスがあったんだ。瑞穂もいる?」

「アイスあるの? いるいる」

 僕は冷凍庫からさっき買ってきたカップアイスを出してリビングに持っていく。


「はい、どっちが良い? バニラとストロベリー」

「え~ ここは半分こでしょう?」


 夕飯同様お互いに食べさせ合いながら、アイスを食べたのだけど、アイスを食べているのに身体が火照ってしょうがない。半分以降は自分の分は自分で食べることでクールダウン。


「そう言えば、このアイス。夕飯の時までは無かったよね? 冷凍庫から夕飯の食材を出したから間違いないはず」

「ギクリ…………」

 よく見ているな。というか明日買い物に行くから今日あたりは空っぽに近いんだった。


「おばあちゃんが帰ってきてお土産でアイス持ってきた、なんてことはないわね。おばあちゃんまだ帰ってきていないもんね」

「…………」

 今日はもう帰ってこなかったりしてね。あはは、そんなことはないか。


「貴匡くん、私が風呂に入っている間に買い物に行ったりした?」

「……うん。買ってきた」

 圧に負けて白状しました。のは間違いないです。


「なんだ、ありがとう。でもなんで黙っていたの? 最初から買ってきたよって言ってくれれば良かったのに」

「そうだね。湯にのぼせてボケていたのかな? あはは」

 なんとか誤魔化せるか……


「なんで、目を逸らすの? やましいことでもあるのかしら?」

「そそそそ、そんなことあるわけないじゃないか!?」

 し、しまった! 思わず目を逸してしまった。


「……ふふふ」

「…………?」



 ポトリ……コトッ



 リビングのローテーブルの上に紙袋に入った、が。


「これ何だと思う? 貴匡くんのベッドの下から転がり出てきたんだ」



「きょ、今日は暑いなぁ~ 汗がぜんぜん引かないどころかダラダラと流れて、額もシャツもビショビショだよ」

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