第25話

「……く~ん……か…まさ…く~ん。おお~い」

「……ん?」


「貴匡く~ん? 寝ているのかぁ~い」

「ふわぁ~ おばあちゃんっ なぁにい?」


 いつの間にか寝てしまった。張り切って早起きしたせいかな?

 とりあえず先ずはおばあちゃんが呼んでいるようだから起きないと!


「ちょっと、来てもらってもいいか~い?」

「はーい。今行くから待ってて!」


 なんだろう。夕飯には早すぎるし、買い物かな?




 おばあちゃんはリビングのソファーに座って僕を待っていた。


「あれ? 瑞穂はどうしたの? 彼女も寝ているの?」

「ん、あの子は買い物に行ってもらっているわよ。夕飯も作ってくれるって言うから頼んだわ。婆ちゃん今日は楽できるわ」


「えええっどうして? 瑞穂は調子悪いんだよっ。おばあちゃん何やっているんだよ」

「ふふふ。やっぱりね。あなたたち二人して勘違いのしっこをしているみたいだねぇ~」


 勘違い? おばあちゃんが訳のわからないこと言い出した。アレか? まさか!?


「貴匡くん。あなたちょっと失礼なこと考えてない? 婆ちゃん、まだボケやしないわよ?」

「あ、いや。その…………」


 何でバレルの? さすがおばあちゃん年の功が上限突破しているね。


「ところで貴匡くんは調子悪い?」

「ううん。朝から絶好調だけど。なんで?」


「瑞穂も朝から絶好調だったようよ」

「え? なななんですってぇ?」


 朝から絶好調? 嘘だ。あんなに赤い顔して熱っぽかったのに?


「貴匡くんも、赤くなったり、熱くなったり、青くなったり、冷や汗かいたりしてなかった?」

「…………してた。なんで、おばあちゃんが、知っている、の?」


 おばあちゃんはニヤニヤと僕を見るだけ。


「なんで、絶好調の貴匡くんはそういう風になっていたのかしらね?」

「っ………あの、その……ねぇ。それは……」


 瑞穂の可愛さにドキドキしたり、恥ずかしかったり、心配だったりだけど。


「くくくくっ。ああ、おかしい。婆ちゃん楽しくて仕方ないわよぉ~」

「な、なにが楽しいんだよぉ~ 今日のおばあちゃんは意地悪だなぁ」


 はっきりと言ってくれればいいのに、おばあちゃんは僕の反応を楽しんでいるかのようだ。


「あらやだよぉ。貴匡くんに嫌われてしまうわぁ。仕方ないから教えてあげるけど、最後は自分でしっかりやるのよ」

「? よく分からないけど。分かったよ。で、なに?」


 しっかりやる? 何を?


「あなた。貴匡くんが今日赤くなったり青くなったり、熱くなったり冷たくなったりいろいろなったようだけど、その理由と瑞穂が赤くなったり青くなったり、熱くなったり冷たくなったりしていた理由はまったく同じよ。二人共同じ理由でアワアワしていたの。わかった?」



「…………! ええええええええええ!? うそっ!? ふえおなじであわわわ」



 パチン


「いでっ……」

 おばあちゃんにおでこをはたかれた。


「これ貴匡くん。落ち着きなさい! 驚いて混乱するのも分かるけどね。婆ちゃんが見守っているから全く問題ない。男らしくガツンといってきなさい」


 そう言うとおばあちゃんは僕をギュッと抱きしめてくれた。

 なんだかとても安心する。



 瑞穂がおかしかったのは体調が悪かったのではなくて、僕と同じ理由で熱くなったり赤くなっていたということだよな。つまりは、そういうことで。



 僕の想いと瑞穂の想いは……同じ。



 ゴクン


 身体がまた熱くなっていた。それより男らしくガツンとってどうすればいいんだよ?


「じゃぁ、婆ちゃん。夕飯の用意をしなくていいなら裏の富田さんちに行ってダーティハリーシリーズ一気鑑賞してくるから。この前から誘われていたのよねぇ」


 夕飯も富田さんちでご馳走になるからいらないって言いおばあちゃんは出かけて行ってしまった。


 ダーティハリーってなに?

 ちょっと調べてみる――組織と規律から逸脱していくアウトロー的刑事ハリー・キャラハンが44マグナムをぶっ飛ばして犯人共を撃ち殺す――おう、おばあちゃん。そしてよく知らないけど富田さん……

 シリーズが五本。え? 今から見るの? マジか?


(いや、それより瑞穂は今買い物に行っていてそのうち帰ってくるんだよな。わわわ、どうしよう。男らしく男らしく? ええええ!?)




「ただいまぁ~ おばあちゃん。買ってきたよ~ おばあちゃん? いないの?」


(うおうっ)

 僕はソファーの上で飛び跳ねてしまった。


 とうとう瑞穂が帰ってきたしまった。帰ってきちゃいけないんじゃなくて、早く帰ってきてほしかったけど帰ってきたら帰ってきたでどうしようか困るんだよ。


「おばあちゃ……ん? あれ、貴匡くんもう起きて大丈夫なの? 調子が悪いんだから無理して起きていることはないんだよ。また顔が真っ赤だよ」


 おばあちゃんの言っていたことはやっぱり本当だった。僕の調子が悪いと瑞穂はおもっていたようだ。


「お、おかえりなさい。お、おばあちゃんは裏の富田さんちに行っていていないよ。そ、それでね……僕の身体の具合は……どこも悪くないし朝から絶好調なんだよ」


「え? うそ、だってあんなに真っ赤で熱ぽかったのに? 私を安心させようと嘘つかなくても良いんだよ」


「ううん。本当に絶好調なんだ。僕の方こそ瑞穂が調子悪いんだとずっと思っていたんだよ。でも瑞穂もどこも悪いところ無かったんだよね? おばあちゃんに聞いた」


「…………」


「うん。あのね、僕が赤くなったり熱くなったり色々していたのは……あの、その。ね」


 身体がこの上ないくらい熱い。全身から汗が吹き出てくる。でも、伝えないと。


 いますぐに。僕はゆっくりと歩を進め、瑞穂の目の前に立った。


「瑞穂、聞いてくれる?」

「うん」


 俯きがちだった瑞穂が真っ赤な顔をあげてくれて、僕と目を合わせてくれる。




「僕は、瑞穂。きみのことが好きだ」




 瑞穂は目から零れそうなくらい涙を湛え僕と見つめ合う。




「私も貴匡くんのことが好き。大好き」




 抱きしめ合う僕らをいつの間にか暮れてきた真っ赤な夕焼けが暖かく照らしていた。





★☆★☆★☆★☆★☆

ここで一章の一区切りのようになりますが、本作は章分け等はしません。

この後も何事もなかったように続きますので、今後もよろしくお願いいたします。

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