第23話

 トイレの目の前で出てくるのを待っているというのもおかしなものなので、僕は少し離れたところにある一人がけの椅子に座り瑞穂が出てくるのを待った。


 程なく瑞穂が慌てたようにトイレから出てきたが、その顔は青白く反対に目元は赤く腫れぼったい感じになっているのが座っているここからでも分かる。


 僕は顔面蒼白になり、あちこちを見て僕を探しているだろう瑞穂に駆け寄った。



「瑞穂、僕はここだよ。大丈夫? ねえ、突然だけど今日は帰らないか?」


 そう声をかけると瑞穂は目を見開いて、次に俯きながら「うん。私も貴匡くんにそういうつもりだったから、今日は帰ろうね」と小さい声で答えた。


 やっぱり瑞穂は元気がない。どこか無理をしたように小声で帰ろうと答えたのはとうとう瑞穂の体調も限界に達してしまったからに違いない。


 急いで、しかし慌てること無く瑞穂の手を握って帰路をたどる。手を握ることに恥ずかしさなど感じている場合ではないけど、偶然にも所謂恋人繋ぎになってしまったのは瑞穂の不安に乗じた僕の欲望が原因に違いない。


 ふと隣を歩く瑞穂を見るとやはり赤い顔をしている。僕も多分顔が赤いだろうけど、瑞穂と違って少し照れているだけだ。ああ、照れている場合じゃないのにこんなときなのに瑞穂と恋人繋ぎが出来ていることが嬉しいなんて、僕は本当になんて駄目な男なんだろう。


 ロッカーに預けていた荷物を取り出し、タクシー乗り場に向かう。瑞穂は荷物を持つと言い張ったけど具合の悪い女の子に物を持たせるなんてありえない。これだけは絶対に譲らなかった。



 生憎タクシープールには一台の空車もおらず、代わりに隣でバスが出発待ちをしていた。


「ねえ、瑞穂。いつ来るか分からないタクシーを待たないでバスでもいいかな?」

「すぐに乗れるし、空いているからバスにしようよ。それのほうが早く帰れそうだよ」


『早く帰れる』そうだ。今は一刻も早く帰れる方を選ばないといけない。瑞穂をバスに乗せて空いている席に座らせる。隣に僕も座ると瑞穂はまた手を触れてくるのでしっかりと握り返した。


(体調が悪くて心細いんだな……しっかりと家までエスコートしよう)


 瑞穂は偶にチラチラと僕の顔を潤んだ目で伺っている。

 もしかしたら急に帰ろうと言ったことを悔やんでいるのかも知れない。


「僕は大丈夫だから、気にしないでね」


 そう伝えると、瑞穂はコクンと頷き僕の身体に寄り添うようにバスの揺れに自身の身体を任せた。


(ホッとして眠くなったのかな?)


 バスの揺れで体勢を崩さないように、一旦繋いだ手を解き瑞穂の肩を抱いた。


(こんなことで瑞穂の肩を抱くことになるなんて! 最初で最後なんだ。僕がしっかりとしないと駄目なのに……)


 しかし我慢ができず僕は空いた右手で瑞穂の髪を触る……そんなことしている場合じゃないのに……手は止まらず、頬にも触れてしまう。


(熱い……やはり発熱が……)


 頬を触る手も退かすことも出来ず僕はとうとう指先で瑞穂の唇に触れてしまった。


 ビクッと瑞穂の身体が跳ね、目を覚まさせてしまった。


「ごめん、瑞穂。起こしちゃったね……」

「ううん。大丈夫だよ、ありがとうね」


 上目遣いに囁く瑞穂に僕の頬がまたも熱くなるのが分かってしまう。

 そんな場合じゃないのに……



 ☆*:;;:*★★*:;;:*☆



 私はすぐさま化粧室を飛び出した。化粧室前に貴匡くんがいない。どこかで倒れていたりしたらどうしよう!


 不安になりあちこちを見回すと、貴匡くんが駆け寄ってきてくれた。でもその顔は青白く顔面蒼白と言って過言でない状態に見えた。


「瑞穂、僕はここだよ。大丈夫? ねえ、突然だけど今日は帰らないか?」


 貴匡くんは今日は帰ろうと言った。ああ、自分で帰ろうと言い出すぐらいに辛かったんだと気づいた私は俯きながら「うん。私も貴匡くんにそういうつもりだったから、今日は帰ろうね」と小さい声で答えるのがやっとだった。


 ロッカーに預けた荷物を取りに行く間貴匡くんは手を握ってきた、それも恋人繋ぎで。体調不良から心細く不安感が増しているのだろう。それなのに私は貴匡くんと恋人繋ぎが出来たことを喜んでいた。嬉しくて頬が熱くなるけどそんなこと考えている場合じゃないのに! ちらりと見上げた貴匡くんの顔も赤く、また熱が出ているのかも知れないというのに……


 ロッカーの荷物は私が持つと言ったのに貴匡くんは持たせてはくれなかった。身体が辛いのに女の子にものを持たせてはいけないなんてやっぱり貴匡くんは優しくて紳士なんだと思った。



「ねえ、瑞穂。いつ来るか分からないタクシーを待たないでバスでもいいかな?」

「すぐに乗れるし、空いているからバスにしようよ。それのほうが早く帰れそうだよ」

 タクシーは生憎空車がなく直ぐ発車するバスが待っていたのでバスで帰ることにした。


 兎に角早く貴匡くんを休ませてあげたかった。



 一度手は離れてしまったけど、ちょっと触ると貴匡くんはバスの席についたらまた手を握ってくれた。すごく嬉しくなって、チラチラとまた貴匡くんを伺ってしまう。


「僕は大丈夫だから、気にしないでね」


 こんな時まで私のことを気遣ってくれる貴匡くんに私は彼の身体に寄り添うようにバスの揺れに自身の身体を任せ寝たふりをしてしまった。ずるい私……


(なにしてんの私! 甘えてどうするの! そんなことしていちゃ駄目なのに!)


 すると貴匡くんは一旦繋いだ手を解き私の肩を抱いてくれた。


(かかっかかか! 肩を抱かれた……)


 暫くすると貴匡くんは空いた右手で私の髪を触る……どっどどどうしたの?……手は止まらず、私の頬に触れてくれる。


(温かい……貴匡くんの手って気持ちいい……)


 頬を触れられたまま身を委ねていると彼は指先で私の唇に触れてきた。


 びっくりして身体が跳ねてしまい、寝たふりを続けられなくなってしまった。


「ごめん、瑞穂。起こしちゃったね……」

「ううん。大丈夫だよ、ありがとうね」


 嬉し恥ずかしくって上目遣いに囁くのがやっとで頬がまたも熱くなるのが分かってしまう。

 そんな場合じゃないのに……




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どうも。作者です。ここに来て勘違いの応酬になっております。

ところで、私、某チューバーと同じでPVもほしいし、星も欲しいです、クレクレです。

只今、お仕事で他人ヒトのせいで苦境に立たされてます(泣)

しばらくはぐちゃぐちゃしそうですので、暖かく見守りましょう?

そんな可愛そな作者にアイノホシを(笑)


(同じことふたりシェアの方でも書いてたりします。あっちも読んでね)

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