第22話

 映画デート。


 なんと貴匡くんから誘ってくれた。ちょっと私が誘導するようなズルしたけど……いやいや、そんなのは重要じゃない、どんなことであれ、貴匡くんからのお誘いってことが大事な点。


 今日の上映作品を見ると、話題のアニメとラノベ原作の恋愛ものが王道だと思う。ただ、情報にうとい私はこの二作品のことを全然知らない。知らなさ過ぎて王道物でを引く勇気が出ない。純文学と子供向けは端から除外なので、洋画のスパイアクションが選択候補第一位になってしまう。初デートがスパイアクション映画ってどうよ? って思うんだけどこの映画この前私がハマっていた小説が原作なのよね。気になる。


「見たいものがあるならソッチのほうがいいに決まっているよ」

 そういう風に言ってくれる貴匡くんはやっぱり優しい。


 嬉しくなって調子に乗ってしまった私は、思い切って指定席をカップルシートにしてしまった。もう少し貴匡くんとスキンシップが取りたいな、なんて軽い気持ちだった。



 カップルシート。侮れない。身体は超密着、周りは囲まれていて個室みたいじゃないの!


 セットドリンクも一つのカップに二つのハート形ストローとか!


 私も貴匡くんもちょっとアワアワしてしまったけど、映画が始まればそっちに気が取られる。



 アクションのシーンで手に汗握るって言うじゃない? ほんとね。ただ私、汗の代わりに貴匡くんの手を握ってしまったの。偶然よ? ホントだって!


 そうしたらね。貴匡くんは私の手を握り返してくれたの!


 もう画の内容なんて全く入ってこなかったわ。ずっとドキドキしてぼーっとしてしまった。


 ふとスクリーンに気づくと、ラブシーンではないですか!


 温かい貴匡くんの体温と映画のシーンにすっかり私の身体は火照ってしまい、コテンと貴匡くんの肩に頭を預けてしまいました。


(あ、やっちゃった……)


 そう思ったのですが、身体が動きません。やっとのことで貴匡くんを見上げると貴匡くんも私のことを優しげな潤んだ瞳で見つめ返してくれます。


 嬉しさと恥ずかしさで私は貴匡くんの腕にしがみつき、顔を見られないように隠してしまいました。果たして熱いのは私の身体なのか貴匡くんの身体なのか? 


 もう映画館にいることさえ忘れてしまい、頭の中は貴匡くんのことでいっぱいです。いつの間にか映画は終わっていてそれさえ気づけませんでした。


(ああ、貴匡くんが私の手をとって立ち上がらせてくれる……優しい)


 私のことを気遣ってくれる貴匡くん。ああ、貴匡くん……すき。


「……あのね、貴匡くん。私……貴匡くんのこ……はっ」


 私はまともに歩けていなかったようで床の段差に足を掛けてしまいつまずきました。瞬間、夢うつつから覚めた私は、我に返って思わずビクリと跳ねてしまいました。


「ど、どうしたの?」

 おかしな行動をとっていたのに貴匡くんは優しく私を気遣ってくれます。


「ああああ、いいいい、いいいの。だ、大丈夫。き、気にしないで。化粧室行ってくる」

 少し慌ててしまいましたが、トイレに逃げ込むことで落ち着こうと思います。


(大変だ……わたし今、貴匡くんに告白しそうになっていた……)


 確かに私は貴匡くんに恋をしていて、貴匡くんのことをもっと知りたいと思っています。貴匡くんが私に好意を持ってくれているか、とても知りたいです。


 そもそも、ゆかりさんのこともあったから、、貴匡くんは恋愛には慎重になっているはずです。それに私のような親に捨てられた貧乏な娘などお金を狙っているようで嫌かもしれません。



 ああ、不安になってきました。



 それだというのに今日の私はなにかおかしいです。それに、貴匡くんもちょっとおかしい行動が見られました。スマホが案内してくれているのに無視して道に迷ったり、急に赤くなって汗をかき始めたり。そういえばお洋服を買う前ぐらいにすごく辛そうな表情も見られました。私自身がデートに舞い上がっていたせいで気づいていないだけで、もしかしたら、貴匡くんは体調が悪いのかもかも知れません。


 それなのに私ったら、早く行きたいからってバスも待たずに貴匡くんを歩かせてしまいました。道に迷ったときに顔が赤いのにっていう貴匡くんの強がりを信じてしまったのは、私がデートしたくて仕方なかったワガママ。


 お弁当箱だって、最初からわっぱの弁当箱が良かったのにあちこち二人で見て回るのが楽しくて、三回もぐるぐる貴匡くんを歩き回らせてしまった。


 お洋服屋さんでも同じ。お洋服屋さんで店員さんと話した直後が一番疲れたような顔をしていた時だった気がする。その後確かに店員のお姉さんに乗せられてしまった点はあるけど、試着している頃には元気そうだったので、ボーッとしたり赤い顔して汗をかいているのを貴匡くんが照れていると勝手に解釈していたのも私だ。


 映画館でドリンクのストローを落としてしまい、一つのストローで飲み合うのが恥ずかしい私はドリンクを私一人で殆ど飲んでしまった。だけど貴匡くんは最後にズズって氷の溶けた水を確かすすっていたような気がする。ああ、熱があるときって水分が欲しくなるよね……私ったら酷すぎる。



 これは間違いないわ。



 今直ぐトイレから出て家に帰ろう。もし貴匡くんが辛そうだったらタクシーで帰ろう。

 お金ならある。大丈夫。


 私はなんてとんでもない我がまま女なんだろう。


 貴匡くんが頬を赤らめていたり潤んだ瞳で私を見ていたのは体調が悪かっただけなのに、好意を持ってくれたらいいな、なんてとんでもない自己中心的な見当違いをしていた。

 そうだよね。私みたいな女の子に貴匡くんのような素敵な男の子が好意を持ってくれることなんてあるわけないよね。


 カナシイヨ……


 ううん、違う。今はそんなこと考えている場合じゃないの。

 一刻も早く家に帰り、貴匡くんを休ませてあげないといけない。


 いつまでもトイレから戻ってこない私を辟易へきえきしながら待っているであろう貴匡くんに早く謝らなと。



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是非とも評価のほどお願いいたします(ΦωΦ)タノムゾ

くれくれ星くれ🌟

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