第15話

 あのゆかりファン(笑)の襲撃から二週間は経ったと思うけど、これと言って彼奴等あいつらやまた別の誰かからの接触はない。この件は終わったと思っていいのかな。


 いつものように徹平は朝の教室で僕の前の席に座り、僕となぜか瑞穂を眺めている。


「二人って仲いいよね」

 何の前触れもなく徹平が言い放つ。


「そそそ、そんなことはないと思うぞ、と、隣の席ならこれくらいは話すし。な?」

 瑞穂にも振ってみる。


「っそ、そうね。隣の席ならふつうですよね」

 ナイス瑞穂。上手く合わせたな、がんばった。


「え~ そうかなぁ??」

 なにが疑問でなにが問題なんだね? 徹平くん。


「おかしくない、だろう?」

 汗が背を伝う。


「貴匡って、去年一年生のときに隣の席の子と何度ぐらい話した?」

 え? んと……指を折って数える。


「四回か五回位……?」

 ニヤリと徹平。


「因みに平林さんは?」

「……一度も有りません」

 ニヤニヤが止まらない徹平。


「何だよ。何か問題あるのかよ」


「隣の席なら会話するのは当たり前なんだろ? 去年まで隣席と会話したことが片や五回で片や一度もないのに? ほほう。そういえば、学校の行き帰りもよく二人でいるよな?」

 なんでそんなに僕のことを見ているんだよ。


「いいい、いやぁ家の方向が一緒だっていうから、たまたまだよねー」

 というか、一緒に住んでいるけどね。語弊はあるけど。

 瑞穂をちらりと見てアイコンタクトをとる。


「ダヨネー」

 カタコトになるな!


「クククククッ」

 徹平はすごく楽しそうに笑い始めた。


「ホント、貴匡を誂うのは面白いよな。まあ、なんかあるんだろうけどこれくらいにしといてやるよ」


 そう言うと徹平は立ち上がり、自席に戻ろうとする。朝のHRがそろそろ始まる。


「ああ、いい忘れた。貴匡………だよね。あと…………」

 俺の耳元に口を寄せて、小声で呟いた。


「…………………スミマセン。黙っていてください」

 OKのハンドサインを出して、背を向けて徹平は行ってしまった。






 放課後。


 今日一日がすごく長く感じた。最近この前の襲撃事件後からはゆかりが大人しく、普通の友人の間柄ぐらいの会話で言動を収めてくれている。自分でもやりすぎていたと思ったのだろうか? それともまた僕がいじめられたら可哀相だと思ったか? いやそれはいくら何でも考えすぎか。


 ここ最近のお約束ごとのように、あの公園とも言えぬ土地のベンチで瑞穂と待ち合わせ。瑞穂もクラスに友だちが出来たので、放課後少し駄弁ったあとに帰ってくることも多くなってきた。今日は、直ぐに教室を出ていったのでベンチで待っているはずだ。


「おまたせ。さあ、帰ろうか」

「……うん。でも、待って。貴匡くん、また何か隠し事ですか?」


 ぐえ~


 なんで徹平といい瑞穂といいこうやって僕に対する観察眼が鋭く出来ているのだろう?

 徹平は他のこともよく気がついているからそういう奴なんだろうけど、瑞穂はいつもはぼやっとしている方が多い気がするんだけど、僕に関する『ナニカ』にだけは嗅覚が鋭すぎる。


「はいもうお手上げですよ。ちゃんと話すから、帰ろう」

 今日は買い物を頼まれているから、はやく帰ってスーパーマーケットに行かないとならない。買って帰らないと今夜のご飯にありつけないから僕も必死ですよ。



「聞かれても構わないことだし、歩きながら話すね」

「うん。そんなに大変なことではないのね? それにしては貴匡くんは今日一日暗かったよね」


「大したことないといえばないんだけどさ、徹平にすっかりバレているし、なんかいろいろ勘違いしている気がするから、それでね。ちょっとだけ気疲れしたかな?」


「やっぱり今朝の内緒話みたいなアレが原因だったりするの?」

 そこまでお見通しなんだな。この娘マジエスパー?


「あのさ。瑞穂のスマホ出してみて」

「これ?」


「そう、これ。これって、以前は僕が使っていたやつだって話したよね」

「えっ、もしかして新道くんは気づいたの?」


「そう。ご名答」

「うわぁよーく見ているね。だって私って教室でそんなにスマートフォン弄ってないよ」


「あとさ、数日前に雨が降ったよね」

「うん、バスで登校した日よね」


「そう、あの日。いつもの校舎の陰では雨だと食べられないから仕方なく教室の自分の席で食べたんだ」

「そういえばそうだったね。というか、貴匡くんはまだ校舎の陰でお弁当食べているの? そこって、あの襲われたって場所でしょ?」


 まだってちょっと悲しい言い方だよね。未だボッチなのは間違いじゃないけど。


「それで、僕は自分の席で、瑞穂は友だちと窓際の席でお弁当食べたんだよね」

「まあ、そうね。ごまかしたわね」


「……瑞穂にお弁当を一緒に食べる友だちができるなんて僕は嬉し泣きしそう」

「そういうのいいから……」

 ちょっと顔を赤らめ恥ずかしがっているようだ。話も上手く逸れた。


「まあ、それはともかく、今朝徹平が耳打ちしたのはスマホのことと『お弁当の中身一緒だね』だと言うことなんだ」

「うわぁ…………引くわぁ」


「え? そこって『お弁当私が作っているのバレたかも?』とか『変に勘違いされるかも?』とかじゃないの?」

「うん、まあ、バレるの早すぎるとは思うけどね。ただ、他人ヒトのお弁当の中身を見比べて同じだ、なんて態々わざわざ言う人いる? 流石にないわよ。ドン引きだよ」

 心底嫌そうな顔を瑞穂はしている。ああ、これはマジなやつだな。


「僕と瑞穂が真隣に座っているんだったら、百歩譲って、その場で同じ内容だね、ぐらいはしょうが無いとは思うけどね」

「離れている二人のお弁当の中身を見比べて、後からこっそり囁くなんて無いわぁ~」





『――という話をしたよ。キミはやっぱり残念さんだったんだね』

『申し訳ございませんでした』

 細かい事実確認は後日にすることにして、もう隠すのも面倒なので徹平に瑞穂の反応を教えてあげた。勿論、徹平に連絡することは瑞穂の了解は取ってある。


『とりあえず、この事は誰にも言わないように。僕のことはどうでもいいけど、瑞穂に何かあったら、いくら徹平でも僕は許さないからね』

『わかりました。平林さんにはよろしくお伝えください』



 同じ話をしているのにいつの間にか朝と夕で立場が逆になっていた。

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