第14話

 僕と瑞穂はリビングのテーブルを挟んで対面している。


 僕が入れたお茶が美味しい。はぁ、落ち着く。


「で?」


 瑞穂は絶対に聞き出すつもりのようで、放してくれそうもない。


 おばあちゃんもリハビリで夕方まで帰っては来ない。リハビリが毎日なのでそろそろリハビリ介護付きグループホームにでも入らないかという話も出ているらしい。でも僕たちがかすみ荘にいる限りは、そちらに行くつもりはないと言っているらしいのを小耳に挟んだ。なんだか申し訳ない気がするけど、一人暮らしスキルが未だ怪しい僕としては感謝しかない。僕も頑張っていろいろと覚えていこう。


「ねえ、貴匡くん? あなた違うこと考えて話を有耶無耶うやむやにしようとしていない?」

「う~ 有耶無耶にするつもりはないんだけど、現実逃避は絶賛開催中?」




「何を訳のわからないこと言っているの。はやく話してよ。なんで貴匡くんは喧嘩が強くてそれを新道くんは知っているのか? ですよ? わかってる?」


「……はい」

「では、よろしくご説明くださいな」




 ――母が亡くなり父が仕事に更に没頭して、僕が殆ど一人で過ごすようになって数年。僕も中学生になった。それで、その頃には周囲の認識は既に孤児みなしごボッチみたいなものだったので、クラスメートにも腫れ物扱いというか無視されていたというか、ほぼ居ない人扱いだったんだよね。そんな中ゆかりだけが相手をしてくれていたから、あんな勘違いをしてしまったんだけどね――




「LOVEゆかり事件ね」


「…………ヤメテ」




 ――ゆかりのこともあった後、思春期特有のもやもやした気持ちが爆発してね。家の中で暴れるっていうのも何か違うし、多少暴れても全然落ち着かなかった。


 最初のうちは家政婦さんが帰った後、夜な夜なジョギングに出たりただふらふら歩き回ったりしていただけだったんだけど、ある時とうとう不良っぽい人に絡まれたんだ。ただその時は特に何もされることなく開放されたんだけど、なんだかすごくドキドキして興奮した。


 それからというもの、そういう様な奴らがいるところをわざと通って追いかけられたりして楽しんでいたんだ。でも、いつも逃げられるとは限らず捕まってボコボコにされたりしてた。


 その時もボコられている最中だっただけど、ある人が助けに入ってくれたんだ。僕が最初にあった不良っぽい人だった。


 僕はその人にお願いして喧嘩のやり方や上手い逃げ方なんかを教わった。その人もよく僕なんかにそんなこと教えてくれたと思うけどね。ただその人も数ヶ月したらふらっと居なくなっちゃったけどね。なんだか友だちみたいな感じで僕は嬉しかったんだけど、結局はボッチに戻っちゃった。


 そして僕はまた夜な夜な出かけては、喧嘩をふっかけられて勝ったり負けたりを繰り返していくうちにソコソコ夜の街では有名になっていたみたい。僕は絶対に顔は見せないようにしていたし、昼間の僕を見て夜の僕を想像できる人は居なかったと思う。ただ一人を除いてはね――




「あ、新道くんでしょ?」

「なんで、先読みしてオチをいうかなぁ」


「なんだか貴匡くんが、どうせ黒歴史のくせに英雄の物語のように自分語りしてきてムカついたのよね」

「……ひどくない?」



 黒歴史なのは間違いないけど、瑞穂に話すことで昇華させてあげてよ。というか、この限りで忘れさせてください。



「それでね。結局のところ学校で初めて徹平に話しかけられて僕の夜の行動が彼にはバレてしまったんだ」



 徹平には偶々たまたま喧嘩しているところを見かけられただけだったのに直ぐにバレてしまた。彼の観察眼には本当に脱帽するしかないと思う。ゆかりとの件も聞かれないけど分かっている風だし、そのうち瑞穂とのことも知られることになると思う。まあ、知られたところで、同じ下宿の同居人で、大家さんの孫ってだけなんだけどな。




「じゃあ、新道くんも喧嘩が強かったりするの?」


「いや、アイツは喧嘩しているところは見たことないな。極偶ごくたまに助太刀的なケリを一発、とかならあった気がするけど。大体、徹平は僕に付いてきて見ているだけだったな。そもそも、徹平は単に塾の帰りだったからさ。僕とは違うんだよね」



「へ~ 結構貴匡くんの話が面白かったから、今晩のおかずに何か貴匡くんの好きなもの一品足してあげようか?」

「え、マジ? じゃ、じゃあ、だし巻き卵をお願いします」




「そんなものでいいの?」

「瑞穂のだし巻き卵は絶品じゃないか? ぜひともお願いします」




「ふふん。じゃ、しょうが無いな。だし巻き卵を作って進ぜよう」

「ありがとうごぜぇます」




 ――徹平と学校でもつるむようになって段々と夜の外出は減っていって、最終的には全く夜には外出することはなくなった。受験に向けた勉強をそろそろ始めないといけない頃だったので丁度良かったかも知れない。その頃の僕の学力も成績も酷いものだったから情けないことに中学二年で既に受験に向けてやり直し覚え直しが必要だったのだ。なので悔しいけど父に塾通いをお願いした。


 塾はどこがいいのか分からなかったので、とりあえず徹平の通っている塾と同じにした。一緒に通ってみて分かったけど徹平もまあ、人のこと言える学力レベルではなかった。




「なんだ、徹平もこのレベルかよ。塾に通っているっていうから頭がいいのかと思っていたよ」


「塾に通っているからなんとかこのレベルでいらえるんだよ」




「そうだよな」

「そうだよ」


――――








「なんだか悲しい終わり方なんだね。涙を誘うわね」


「瑞穂。キミも僕たちと同じ高校に通っているんだから似たり寄ったりの学力だろ?






「……うぐっ」

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