第7話

 放課後。帰宅の際は歩きではなくバスにした。


 文句を言いたそうな瑞穂を連れ出し自宅方面に向かうバスに乗せる。少し急いで移動したのでゆかりにも捕まらなかったし、他の生徒からの注目をくらうこともなかった。


「瑞穂」

「ん?」


「ご飯、今までちゃんと食べてこなかったでしょ?」

「うん。あ、お昼ごちそうさまでした」


「ううん。変な言い方で渡してごめん。普通に渡せばよかった。それで、原因はお母さん?」

「そう」


 やっぱり服装その他同様食事さえまともに与えられてこなかったようだ。



「ねえ、唐突だけど瑞穂は料理が出来る?」

「よほど凝ったものじゃなければ大概のものは出来ると思う」


 良かった。


「じゃあさ、明日から僕にお弁当を作ってくれないかな? 勿論瑞穂の分も込みで」

「え? 私が貴匡くんのお弁当を作るの?」


 若干目が泳いでいる。


「そう、お願いできないかな。食費はちゃんと出すし、手間賃も渡すから」

「私の分もいいの?」


「一つ作るのも二つ作るのも変わらないでしょ? 作ったこともない僕がいうのもおかしなものだけど」






 歩きと違ってバスだと十分くらいで最寄りのバス停まで着いてしまう。バス停からは歩いて数分でかすみ荘うちだ。


 おばあちゃんはリハビリで夕方まで帰ってこないはずなので、瑞穂と話をするには丁度いい。


 制服を着替えてリビングで話すことにした。お茶をいれてリビングに行くと、やっぱり変な服装の瑞穂がちょこんと座って待っていた。


「はい、お茶。お茶だけは入れるの上手だから」

「ありがとう。早速だけど……」


 さっきの話の続きをする。


「先ず、お弁当は僕自身が欲しいと思っている。去年まではおばあちゃんのお弁当があったけど足の負担になったようなので断ってしまったんだ。でも購買も学食も混んでいるし、あの争奪戦的なのはあまり好きじゃない。次に瑞穂にもちゃんとした食事を摂ってもらいたいと思うから。やっぱり瑞穂は痩せすぎだと思うし、健康的になってもらいたい。最後に……いやなんでもないや」


 最後の一つは僕自身の欲望のようなものだから話す必要はない、な。


「なに? 最後まで話してくれないと嫌だな」

 ねぇねぇとしつこい。真逆と思うけどバレているのかな?


「な、なんだと思う?」

「質問に質問で返すの嫌われるよ。まあ良いか……ウ~ン。なんだろうなぁ」


 バレてはいないけど何らかはあるとは気づかれているってパターン?


「分かった。女の子の手料理とか手作りお弁当に憧れている、ってやつじゃない?」

「…………………」


「あ、あれ? 当たっちゃった? あの、ごめん?」

 顔がものすごく熱い、耳も熱い。絶対に真っ赤な顔していると思うし、恥ずかしくって顔があげられない。


「いいじゃん…………………少しぐらい憧れたって」




 暫くからかわれて落ち着くまで小一時間。


「試験的に今日の夕飯も瑞穂に作ってもらおうか?」

「え、いや。今日はまだいい。おばちゃんだって用意していたものがあるかも知れないから、今日はお手伝いだけにする」


「おばあちゃんには連絡しておくから大丈夫だけど?」

 瑞穂は急にモジモジし、頬を染めて俯きながら言う。


「お、男の子に手料理を出すなんて初めてで…………自信なくて恥ずかしいの」




 結局おばあちゃんに連絡したら買い物を頼まれたので、今日も二人で近所のスーパーマーケットの方に向かっている。瑞穂はさっきまで着ていた変な服を脱いで制服を着てきた。


「制服なら、まあ、間違いがないので当面は仕方がないよね」

「むっ」


「あはは、初めて怒った時『むっ』って言う人見た。ごめん。言葉足らずだったね。これからこうやって二人して買い物に出ることも多くなると思うんだ。おばあちゃんが前より足の具合良くないみたいだし。だからって、その度に制服に着替えるのっておかしいじゃない?」


 だから、『今日は瑞穂の服を買います』と宣言したら、一瞬喜んだ顔して直ぐにシュンとしてしまった。


「お洋服買える余裕が私にはないもん」

「僕が買うよ。とはいっても、純生さんとおばあちゃんに一緒に行って買ってきてと言われているから後からちゃんと代金はもらうよ」


「買ってもらうなんて出来ないよ」

「自分の姪や孫が辛そうにしていたら、悲しいだろ? 亡くなったお父さんの変わりにはなれないだろうけど何か瑞穂にやってあげたいって気持ちはわからなくは無いよ」

 同情や憐れみでなく、助けてあげたい幸せになって欲しいという瑞穂の親族の気持ちは汲んであげたいし、瑞穂にも素直に受け取ってほしいと思う。


「さすがにスーパーマーケットじゃ洋服は売ってないからこのままバスに乗って近くのショッピングモールまで行くから」


「え? え? 今からなの?」


 丁度着たバスに瑞穂を押し込んでバスは出発する。


「貴匡くん。あなたちょっと強引なところあるのね。なんでバス停で話しているのかと思えばこういうこと」

「そうかな? 女の子にカワイイ服を早く着せてみたいってだけなのになぁ」


「まったく、調子いいわね」

「ああ、下着もちゃんと選んでね。今朝みたいなことあったとき残念下着だと僕の気持ちも残念になっちゃうからさ」


「…………………」

 なんだか瑞穂に睨まれているんですけど。


「イヤだな。冗談だよ? 瑞穂がいつも言っているようなちょっとエッチっぽい冗談だってば。怒らないでよ」


「怒ってなんかいません」


「いやいや、怒っているよね。ごめんなさい、もう言いません」


 瑞穂はムスッとしているが、少しうつむき加減だ。


「あのおパンツが持っている中で一番良いものだったのに……」


(え、は? そ、そうだったの??)


「そんな風に思われるなんて……もう寝るときにパンツは、はかない!」




 そ、ソレはどうかと思うぞ!



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