第6話
その後、和気あいあいとはいかなくてもそれなりに話をしながら歩いていくと学校までもう少しというところで瑞穂は足を止めてしまった。
「どうしたの? ああ、僕と一緒のところとか見られたら嫌だった?」
「全然違いますよ。貴匡くんと一緒だろうと他の人と一緒だろうと私の方は特に気になったりしません」
「じゃあ、どうしたんの?」
「……疲れてしまいました」
マジか? 学校までかすみ荘から約五キロメートル、今日は結構ゆっくり目に歩いているから、多分今は四キロメートルをちょっと越えたあたりだと思う。そろそろ同じ学校と思しき生徒がちらほら見えてきた頃だった。一緒のところを見られたくないものと思ったら、まさかの体力切れとは……
一旦休憩することにする。
「なあ、瑞穂。
「……してないですね」
「あれだけ細い足腰じゃ、歩くのは辛いか。ゴメンな気づかなくって」
そう僕が言った途端に瑞穂は急に立ち上がり、すれ違いざまにキッと僕を睨んだ。
「お気遣いどうも。体力ないのは私が悪いだけですけど、朝から私のお尻を鑑賞しておいて痩せていて魅力がないなんて酷すぎやしませんか?」
「は、はぁ!? 鑑賞なんてしてないだろ。勝手に尻を出していただけのくせに」
(それに魅力がないなんて一言も言っていないし、思ってもいないから)
「ふふふ、冗談ですよ。もし見たかったらいくらでも見てもらって良いですよ?」
「はいはい」
適当に手をヒラヒラさせてあしらっておく。攻め返されると弱いくせに何で余計なことをこの娘は言うんだろうな。
少し休んだからかその後は止まること無く学校まで着くことが出来た。
僕と瑞穂の二人で校門を一緒にくぐると一部の生徒から変な視線を当てられた。
「ごめんなさい。私が変わり者だから貴匡くんがおかしな目で見られていると思うの」
「そうなの? それって僕が変わり者だからおかしな目で見られているのかもよ」
そうなんだよね。僕も基本ボッチで友達は少ない。しかも数少ない友達が徹平という皆が注目のイケメンだし、しつこいくらいに絡んでくるゆかりだって美少女だ。なんで
「クラスの変わり者が二人ふたりして歩いているから面白がっているのかしらね」
「そうだと思うよ。まあ、僕らが気にすることではないと思うけどね」
瑞穂だってけっこう可愛いと思うんだけど、本人にはその自覚はなさそうだし言う必要もなさそうなので黙っておく。
教室に入ると瑞穂は今までの習慣だからと自席に座り本を読みだした。因みにあれも古本だって言っていた。
本当は瑞穂と話をしていたかったけど、今朝の校門のところでの視線には嫌なものも感じたので自重することにした。ぼ~っとしていると僕の前の席に徹平が座った。
キミの席はそこじゃないだろうに。
「うすっ、どうしたぼんやりして」
「いや別に。色々考えることが多くってさ」
「なにそれ?」
後ろから声を掛けてきたのはゆかりだった。いつもみたいに絡みついてこないでじっと僕の顔を覗き込んでいる。
「ねえ、貴匡。なんで彼女と一緒に登校してきたの? だいぶ学校の手前の方から貴匡とあの娘が二人で一緒にいちゃついていたって噂になっているわよ」
『あの娘』と言いながら小さく指を瑞穂に向けて差す。
「平林と一緒にいても問題はないだろうし、そもそもいちゃついてなんかいないんだけど?」
いちゃついていたってあの尻の鑑賞がどうしたこうしたってやっていたやつのことかな。
「
「あはは、貴匡のことシメるの? 無理無理。返り討ちが良いところだよ」
「止めろ」
ちょっと低い声が出てしまった。
「ゴメンよ。冗談だって、分かっているだろ?」
徹平はヒラヒラ手を振って笑いながらゆかりを連れて自分の席に行ってしまった。徹平の右後ろがゆかりの席なので丁度いい。
(やっぱりあの嫌な視線は僕がいけなかったんだな。失敗した)
今日も新学年二日めということで授業があってもオリエンテーションに近く、今週いっぱいくらいはこんな感じになりそうだ。
勉強しなくっていいなら、考えなきゃいけないことが本当にたくさんあるから一つずつ片付けられるようにしていかないと。現物の片付けもままならない僕が、思考やら行動の片付けや方向付けなど得意なわけもなく、思考の海にズブズブと沈んでいくだけだった。
気がつくと昼休みになっていて、購買に昼めしを買いに行くことにする。瑞穂は座ったまままた本を出している。飯を食わないつもりなのか? 『お金、殆ど持っていないの』そう言っていた彼女を思い出したが、お金やるから買ってこいなどと言えるわけがない。
昼めし時は徹平もゆかりも他の友だちに捕まって、僕のところには来ない。だから、僕は購買でパンなどを買うと、校舎の陰のベンチなどで一人で昼を過ごすことが多い。
でも今日は、購買でパンとおにぎりを買ったあと、すぐに教室に戻った。
さっきと変わらず瑞穂は一人本を読んでいた。僕は瑞穂の隣りにある自席に座り、小さく彼女に声をかける。
「食ってないんでしょ、昼めし」
そう言って、菓子パンと惣菜パンを一つずつとオレンジジュースの紙パックを彼女にそっと渡す。
「え?」
「どーぞ。貰ってくれないとゴミ箱に捨てるしかないんだよね。手作りパンで消費期限短いしさ」
昼めしを渡すだけだと言うのになんともひねくれた言い方をしてしまった。せめて瑞穂にだけは普通に渡せればよかったのに。何でこういう簡単なことが学校での僕には出来ないんだろう。気をつけよう。
僕らは無言で黙々とパンやおにぎりをかじって、午後の授業に備えた。
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