第2話

本日、二話目の放流でございます……


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 始業式と各クラスでのHRもつつがなく終了し、午前中には開放された。授業や部活動などはすべて明日からになる。


「一緒に帰らない?」

 ゆかりが声をかけてくる。


「ゆかりんちはあっち。僕のうちの方向とは違うから無理。徹平とでも帰ってくれ」

 僕の住んでいるところはゆかりには教えていない。というか学校に個人情報として登録している以外には誰にも教えていない。


「じゃ、お家教えてよ」

「いつも言っているけど、ダメ」


「ケチ。気が変わったら最初に教えてね。じゃあ、バイバイ」

 こういうところの引き際は流石幼馴染で長い付き合いだと思うんだけどな。




 学校からかすみ荘まで歩いて約一時間かかる。バスも通っているけど、僕は歩くことにしている。以前は学校と家との間にあるホームセンターでアルバイトもしていたのだけど、おばあちゃんの足の具合が悪くなってからは、買い物の手伝いなどをするようになり辞めてしまった。アルバイトの収入が無くても父親から小遣い含め十分な金額が毎月振り込まれているので、金銭的には困ることはなかった。



 幹線道路から住宅街に入ったところで見覚えのある顔を見かけた。どうも道に迷っているようでスマホと紙のメモを繰り返し見ては周りを確認している。


「どうした?」


「うわっ、はい!?」

 急に後ろから声をかけたので驚かしてしまったようだ。


「あ、驚かしてゴメン。どうしてこんなところにいるんだ? 平林さん」

 そう、迷子は平林瑞穂だった。


「大杉くんこそ、なんでここに?」


「いや、僕んち直ぐそこだから。ここの近所」

 あからさまに安堵した様子だったのでかなり切羽詰まっていたのかもな。


「近所に住んでいるのなら、ここ分かりますか?」

 住所と名前の書かれたメモ紙を見せられる。


「…………付いてきて貰っていいか?」


「連れて行ってくれるの? お願いします」




 無言で歩くこと五分弱。目的の建物に到着する。


「ただいまぁ。おばあちゃん、お客さんだよ」


「ふへ?」

 後ろで変な声が聞こえたけど気のせいかな。


「このメモ紙に書いてある住所、間違っているよ。ここ、じゃなくてな。辿り着くわけないよ」


 かまちに上がった僕を呆けた顔で平林は見上げている。


「かすみおばあちゃん‼ お客さんっだよっ」

 最近耳も遠くなってきたので大声で再度おばあちゃんを呼ぶ。


「はいはい、おかえり貴匡くん。あれま、あなた瑞穂じゃないかい? よく来たね」

 なんとものんびりとかすみおばあちゃんは平林瑞穂を迎えるのであった。


「ただいま。なんか道に迷っていたから連れてきたよ。もしかして今日からここに住むことになっているお孫さんて平林さんなの?」


「そうよ。あらら、貴匡くんたら一緒に住む前から婆ちゃんの孫をなのかしらね? 名前も知っているようだし。うふふ」


 うふふじゃなくてさ、僕のことはいいから平林の方を相手してあげなよ。玄関先で真っ赤な顔している最中だよ。多分この娘そういうのに耐性なさそうだから、誂うの止めてあげて。おばあちゃん実の孫相手とはいえぶっちゃけ過ぎだから。



「僕が言うのも変だけど、平林さん。いつまでも玄関にいないで上がりなよ」


 平林をリビングに通し、おばあちゃんも一緒に座らせて落ち着かせる。僕が一緒にいても仕方ないと思うので、二人にお茶を出すために食堂でお湯を沸かしている。


 かすみ荘は賄い付きの下宿だったので、ダイニングなんて洒落たものでは無く台所に食堂が付いたような作りになっている。


 この作りだから今まで僕とかすみおばあちゃんの二人だったからかなり持て余していた。

 平林が加わってもさして変わりはないかも知れないけど……


「どうぞ。召し上がれ」

 緑茶と近所の人に貰ったせんべいがあったので二人の前に出した。


「それじゃ、僕は自分の部屋に行っているね。なんかあったら呼んでくれればいいから」

 そう言って立ち去ろうとしたら、平林に服の袖をぐいっと引かれて、ぽすんと隣に座らされてしまった。


「すみません。一緒にいてください」

「なんで? どうしたのさ」

 囁くように僕に一緒にいてくれと頼んでくる。


「それで、二人はどこまで進んでいるのかしら?」

 ははは……乾いた笑いしか出ないな。


「おばあちゃん。僕らは偶々同級生になっただけで、今日はじめて話したばかりだよ。かすみおばあちゃんの期待に応えられるような面白おかしい話はないんだよ」


 おばあちゃん、見事にがっかり顔してしまったよ。


「そうなのかい、つまらないね。でもこれから何か起こるかと思えばいいから若いふたりに期待して楽しみにすることにするわ」


 そういうとお昼ごはんの用意をしなくちゃね、と僕と平林さんを放って席を立ってしまった。相変わらずの自由人ぷりだよ、おばあちゃん。




「平林さん、ずっとそんな話をおばあちゃんに聞かれていたの?」

 コクンと頷く。


「実の孫なんでしょ? 適当にあしらいなよ。かすみおばあちゃんは婆ちゃんなのに恋バナ好きなだけだから」


「実の孫といっても、かすみおばあちゃんに会うのは数年ぶりでここの家さえ場所が分からなかったほどですよ」


「なるほど。じゃあ仕方ないかもね。自分の部屋には行った? って行っているわけないよな。ここに捕まっていたんだし」


 案内するねと立ち上がり、平林の部屋に向かう。


 彼女の部屋は僕の隣なので必ず僕の部屋の前を通ることになる。


「ここが僕の部屋で、そっちが平林さんの部屋だよ」


「結構広いのですね」


「そうだね。でも物を置くと意外と狭いかもね」


「そうなのですか? 大杉くんのお部屋を見せてもらっても良いですか?」


「……いいけど。散らかっているよ」

 ドアを開けて部屋の中を平林に見せる。


「ふふ、ほんとに散らかっていますね。でも思いの外やっぱり広いですよ」


 ドアを押さえた僕の腕の下に潜り込むようにして部屋を覗き、上目遣いで微笑む平林に僕の顔は熱くなる。




 学校で見た無表情の平林とまったく違う可愛らしい表情に鼓動が早まるのを僕は隠せただろうか。



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どうぞよろしくおねがいします。

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