第14話「本当の戦いはこれからだろう」

 三日後。俺は同好会の部室でパソコンに向かっていた。

 マウスを小刻みに動かし、キーボードを高速で叩き覚えたてのショートカットを駆使する。

 三日で覚えろと言われた二つのソフト。今日はそれらの成果が試される日。


 俺に与えられた課題は三日前に湊土が作業していたページの完全再現。部長の手書きの指示書を見ながらパソコン上でそれを組んでいく。

 制限時間は湊土がこれを組むのにかかった時間。一時間三〇分だ。

 時間を気にする余裕もないほど俺は無心で作業を進める。


 あと少し。最後に文字のサイズを微調整すれば終わり。

 カチッとマウスをクリックする音と共に、


「出来たっ!」


 完成したものは自分で見ても驚くほど完璧だった。

 ちゃんと雑誌になっている。部長の丁寧な指示書のお陰が大半だが、それでもディスプレイに映るそれには達成感があった。


 そうだ、時間は? 感覚的には時間ギリギリか少し余裕があるくらいだ。


「一時間……五八分……」


 部屋の時計の針は残酷にも真実を教えてくれた。

 俺は女――もとい美空との戦いに負けたのだ。

 退部が決まった以上もうここに居ても意味がない。俺はそっと席を立ち部屋の出口へ向かった。

 一千万円を稼ぐあてがなくなった。さて、どうしたものか……。


「日下部くん。出来たもの出力して見せてよ」と部長に呼び止められた。


 ここで言う出力とは部屋にあるコピー機でプリントアウトすること。

 俺はパソコンに戻り部長の指示に従ってページをプリントした。


「どれどれ~。おお、ちゃんと出来てるね」


 部長が手に取った紙を眺めていると、湊土と美空もそれを見にやって来た。


「え、凄い。普通に出来てるよっ」

「そう? なんか全体的に雑じゃない?」

「なに言ってるの編集長。三日でこれは考えられないよ。僕でも三日じゃ覚えられないよ」

「そうですよ美空さんっ。ていうか僕もうかうかしてられない……。ハル、凄いよ!」


 湊土と部長が笑顔を俺に向ける。

 なんだ? 三日以内に湊土に追いつかなければ退部だろ?

 現に美空だけは否定的な意見だ。

 勝負には負けたんだ。そんな慰めはいらない。


「お世話になりました」


 俺は頭を下げ再び部屋を出ようとした。


「ハル。どこに行くの?」

「どこに行くって……。俺は負けたんだ。もうここも俺には用がないはずだろ?」

「……美空さん、ハルがあんなこと言ってますけど」

「アニメの見過ぎじゃないの? 勝ったとか負けたとか誰もそんな勝負してないってのに」


 美空が言うと二人は顔を見合わせて笑う。


「元日っ」

「なんだっ――なんですか……?」


 美空に名前を呼ばれ一瞬ため口が出そうになって止めた。どうせ退部だからどうでもいいんだけど。


「早速だけど仕事してもらうから。湊土が持ってる仕事を手伝ってちょうだい。じゃあ皆作業に戻って」

「はいはーい。じゃあハル、これお願い」


 湊土は部長の書いた指示書を一枚、俺のデスクに置いた。

 俺が納得出来ずに立ち尽くしていると美空の怒声が響く。


「タラタラやってたら締め切りに間に合わないわよ。さっさと作業しなさいっ!」

「だってさ。頑張ろう、日下部くん期待してるからね」

「ハルー、早く作業してよ。また美空さん怒らせたいの?」


 どうやら俺はまだここに居ていいらしい。

 もちろん不満もあるが、母との勝負に勝つためには俺はここで頑張るしかない。


 今はまだスタート地点に立っただけだ。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


最終回みたいな終わり方ですけどまだ続きますので

引き続きこの作品をよろしくお願いします。

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