第11話「お金には勝てないだろう」

 こんな女と一緒になんてやってられるか。俺は湊土を振り払う。


「俺も一緒だ。お前みたいなクソ女は大嫌いだよ!」


 言うと再び湊土が俺の口を塞いだ。


「ごめんなさい美空さん。こいつ馬鹿なんです。今日だって転校してきた最初の挨拶でいきなり女子に喧嘩売って、まさか美空さんにも喧嘩売るとは思わなかったな~。あははっ、でも面白い奴でしょ。美空さん面白いの欲しいって言ってましたよね? ねっ?」

「おい、湊土放せ。こんな女に媚びるなよ。男として恥ずかしくないのか⁉」

「恥ずかしいのはハルの言動の方だよっ」

「俺のどこが恥ずかしい⁉ 女は敵なんだ。敵に媚びることが一番恥ずかしい行為なんだよっ!」

「敵ってなに⁉ ハルは漫画かアニメの見過ぎだよ。やっぱヤバイよこの人~」


 バアンッ‼

 言い合う俺たちにイラついたのか女が強くデスクを叩き俺を睨む。


「なんだよ、やるのか? いいよやってやるよ。女だって俺は容赦しねえぞ」


 俺は止める湊土を引きずりながら女に詰め寄る。


「気に入った。あんた面白いわ。入部を許可します」


 ぐわんと視界が回るような感覚。俺がこの女が嫌いな理由。いきなりの物言いもそうだが、それよりなによりこの女は……母に似ているんだ。


「はあ? ふざけんな。俺はこんな訳のわからない部活だか同好会なんか入らねえよ!」

「ハル、ちょっと落ち着いてよ。お金はどうするの? 普通の部活に入ってたら一千万なんて絶対に稼げないよ⁉」

「うるさい、そもそもこんな部活動で一千万も稼げる訳ないだろ。だいたい何やってる部活なんだよ⁉ ぐっ」


 バサッと俺の顔になにかが投げつけられた。床に落ちたそれに目を遣るとそれは一冊の雑誌だった。


「なんだこれ? 雑誌……?」


 手に取ると表紙の上に『IMA×GAKU(イマガク)』と書かれ、学生服を着たアイドルのような女が写っていた。


「正確にはフリーペーパーだね」と部長の風間が教えてくれた。

「そう。ここFP同好会では、そのフリーペーパーの企画から制作までをやってる。さっき言ってた一千万というのは卒業までに稼ぎたい金額?」


 女に尋ねられ俺が無視していると代わりに湊土が答えた。


「なるほど。卒業まで残り三十一か月だと月に三十二万円程度か。部長、先月の利益はいくらだったっけ?」

「六十万円くらいかな」さらりと答える部長。


 たかが学生の部活動で月の利益が六十万円だと? しかもこんなペラペラの雑誌で?


「もちろん、初めから三十万もあんたに払う訳がないけど。私たちが卒業してからあんたが成長して部長にでもなれば、利益を独り占めできるかもしれない。そうすれば一千万も不可能じゃないわね」


 女の言う通りになれば三年生になった年だけで七百万以上を稼げる計算だ。

 雑誌の作り方なんて全く知らないし、本当に学生だけで作れるものなのかもわからない。この女のことだ、おそらく一年はタダ働き同然の給料しか出ないだろう。それでも最後の一年間だけで七百万を稼げるのなら目標の一千万が一気に現実味を帯びてくる。


 ただ、これはあくまで二年後俺が部長になるまで成長したらという前提。ある種の賭けだ。それにこの性格の悪そうな、母に似た女の下で果たして俺は二年間も耐えられるだろうか?


「どうする? やっぱり辞める?」


 くそっ。このニヤついた女が腹立たしくて堪らない。負けてなんていられない。


「やってやるよ。二年後絶対に俺がここの部長になってみせるっ」


 俺の言葉を聞いた女は、今までも散々ニヤついかせていた顔をこれでもかと最上級にニヤつかせ。


「いやぁ、いいな~。あんたみたいなやんちゃ坊主を待ってたんだ。私が卒業するまでの間たっぷり虐めてこき使ってやるから。覚悟しなさい」


 とまるで童話に出てくる意地悪婆みたいな台詞を吐いた。

 こうして俺は晴れて? FP同好会の一員となったのだった。

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