第778話 電話で詐欺を……
これは昔、詐欺の片棒を担いでいた時のことです
「お前の今日のノルマはこれだけな。全部一人暮らしの老人ばかりだから簡単だろ」
「分かりました」
老人をだますのは簡単……そう言っているあんたもそう思ってないくせに。耳が遠いだけならまだしも、話は長いわ詐欺とバレる事も多い。まだ、何も知らない若者の方がやりやすいくらいだ。それも、俺に回ってくるのは一度失敗したやつが多い。俺を斬り捨てる気マンマンなんだろうが、俺も他に行く当てが無いから我慢している
「もしもし……」
「あのですね……」
「息子だけど……」
「銀行の利息が……」
リストに書かれている情報をもとに次々と電話を入れる。今日はまだ一軒もATMまで連れていけていない
「はぁ。これを最後に飯にでもするかな」
昼が近くなったので、次の1件が終わったら休憩にするつもりだった
「もしもし」
「はいはい。〇〇です」
電話に出た声から、普通の老婆のようだ。しゃべり方のニュアンスから、多少ボケている感じがする。これならいけるかもしれない。情報では、数年前に夫を亡くし、子供は居ない。数年前なら、まだ遺産は残っているはずだ。よし、銀行のほうでいこう
「銀行ですけど、暗証番号が流出した可能性があるので、一度確認させて貰えませんか?」
「あいあい、いいですよ。暗証番号はですねー」
「ああ、それはATMの方でお願いします。携帯電話はお持ちでしょうか?」
「ありますよー、電話番号は……」
とんとん拍子に話が進んでいく。ラッキーだ。あっさりと教えられた携帯電話のほうへ電話をかける
「もしもし」
「はい。〇〇です」
電話に出たのは、厳格そうな声のおじいさんだった。かけまちがえたか? けれども、名乗った苗字は一緒だった
「えっと、××さんはいらっしゃいますか?」
おばあさんの下の名前で尋ねる。もしかしたら、近所の誰かが来ていて、詐欺を疑われたか? もしそうなら、バレる前に一度電話を切る必要があるな
「妻は今出かけていていませんが。伝言を伝えましょうか?」
え? いまのいままで話していたのに、いつの間に出かけたんだ? それなら、この声は誰だ? 妻? 夫は亡くなっているんじゃ? 情報のミスか?
色々な疑問が頭に浮かぶ。けれども、一度かけなおすことで心の整理をすることにした
「ああ、また時間を空けて改めてお電話差し上げます。ありがとうございました」
電話を切る。すると、すぐに着信があった
「うわあっ! びっくりした」
電話番号を見ると、先ほどのおばあさんの電話番号だ。かけなおしてきたのか? 今の今で?
「も、もしもし?」
「わしですけど、携帯に電話をかけてこないんですかい?」
「今、かけま――」
「妻は今出かけていて居ませんが」
「え?」
声が、急におじいさんのものに変わった
「息子の家に、遊びに行こうかと思っていますので、手短にお願いしますね」
声が、急に若い女性のものに変わった。何より、この家には息子なんて居ないはずだ
「暗証番号はー、4桁だよ?」
声が、急に子供の声になった。意味が分からない
「そうだ、□□さんの家にもそのうち遊びに行きますね」
ガチャンッ
俺は慌てて電話を切った。というか、携帯を叩きつけた。なぜなら、教えてもいない俺の苗字が呼ばれたからだ。詐欺グループの持ち物だから、怒られるかもしれないが、それどころじゃない
プルプルプルッ
俺の個人携帯の方に着信があった。電話番号は、あのおばあさんだった
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