第694話 たまごっち

あるアプリで女の子と知り合った


と言っても、名前も知らないしどこに住んでいるのかも知らない。ただ、アプリで会話するだけだ


暇なときに話しかけて、相手も暇なときに返事をするだけの関係から、積極的に会話するように変化していった


一時期は、何かの詐欺やサクラなんかじゃないかと警戒したこともあったが、今は警戒していない


特定までは行かないけれど、女の子が行ったことがある店や観光名所などから、大体の住んでいる場所が分かったからだ


しかし、そこは自分の住んでいる県からは遠いので、実際に行ったことは無い


「なあ、せめて電話くらいいいだろ?」


「だめ、親がいるし。妹と一緒の部屋だし」


「じゃあ、外に出たときでも……」


「また、今度ね」


そんな感じで話したことも無いけれど、ぶっきらぼうなしゃべりは普通の女の子だと感じた


ある時、一時期はやっていた「たまごっち」の話になった。もう十年以上経っているが、電池さえ入れ替えれば使えるだろうと思う


そして、その子は「たまごっち」を欲しがった。当時レアだった白色だが、再販されたのでレア度は低くなっている


「じゃあ、俺の家の住所を教えるから、返信用封筒を入れて送ってよ」


「分かった、絶対だよ」


なぜほしいのかは分からなかったが、今からやろうとは絶対思わないので無料であげることにした


数日後、封筒が届いた。外側には宛名だけが書いてあり、出した者の住所も名前も書いてなかったが、中を開くともう一枚封筒が入っていて、そこには名前と住所が書いてあった


思いがけず知る事が出来た女の子の住所と名前。住所は思っていた通りの県で、番地からはその県のどこらへんかは分からなかった


さっそく「たまごっち」を封筒に入れて郵便局へ出しに行く


「あっ、住所と名前、控えておけばよかった」


どうせアプリで話せると思って、住所も名前も控えなかった。まあ、名前の方は……あれ? 思い出せない。住所は……思い出せない


「なんでだ? なんでさっき見たばかりのものが思い出せないんだ?」


見慣れない住所は兎も角、苗字もしくは名前すらも思い出せないのはおかしいと思った


そして、アプリで連絡を取る


「え?」


なぜかアプリに女の子の名前が無い。名前と言ってもニックネームだけど


それから、女の子と連絡を取れることは無かった


そして、女の子が送ってくれた封筒もいつの間にか無くなっていた


「たまごっち」が惜しいとは思わないけれど、なぜ連絡が取れなくなったのか今でも分からないままだ

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