第673話 初心者マーク
私は今日、残業で帰りが遅くなり、時計を見るとすでに夜中の0時を回っていました
「早く帰りたいな……」
免許を取ったばかりなので、若葉マークのついた車に乗り、帰ります
入社してまだ半年も経っておらず、今日に限って別の支店での仕事だったため、慣れていない道を通っていました
日中と違い、夜の道は目印になるようなものも見えず、カーナビだよりです
それなのに、暗い道を走っていると急にトイレがしたくなりました
「うぅ、近くにコンビニも無さそうなのに……」
山に近いため、コンビニどころか民家もあまりありません。たとえ民家であっても、0時を過ぎていればまず起きていないでしょう
「ナ、ナビで……」
近くにトイレが無いか検索すると、2kmほど走った場所に大きな公園があり、そこに公衆トイレがある事がわかりました
すでに信号が黄色や赤の点滅に変わっているため、それほど時間がたたずにつく事が出来ました
公園の駐車場には、夜中にも関わらずいくつかの車が停まっています。無料の駐車場代わりにしているのか、運転席に人は見えません
「そんな事よりも、トイレトイレ!」
運よく、ここのトイレは入ると自動的に電灯が付くタイプでした。以前、他の場所の公園のトイレでは電灯が付かないというところもあったので安心です
「ふぅ……」
トイレを出て、自分の車に戻ります。すると、何か自分の車の周りに人だかりができている様に見えます
人だかりと言っても、黒い人型のシルエットが、私の車を囲んでいるような……
すると、一瞬公園の周りを覆っている樹木に自分の視界が遮られ、また見えるようになったときには黒いシルエットはありませんでした
「気のせい?」
不気味な気がして、口に出して「気のせい」を強調します
すぐに車を走らせます。その公園から自宅に向かうルートは、少し狭い道を通る様でした
1個目の十字路に差し掛かった時、左わきに1個だけのお墓が見えました
「……ちょっと怖いな……」
そこを通り過ぎ、曲がり道を抜けた先にもまた十字路がありました
「え? ここにもお墓?」
さっきのものとは違いますが、またお墓です。何か不気味な感じに拍車がかかりました
次の十字路は赤信号の点滅でした。そこを左折すると、後ろから車のライトが見えました。その光に安心しましたが、次の止まれの道で違う場所へと走り去っていき、また自分ひとりになりました
「早く帰りたい……」
それからは何事も無く、家につきました。家族はもう寝ているのか、電気は消えて玄関も鍵がかかっていました
すると、後ろから視線を感じました。そこには、黒い影がジワリとたたずんでいました
私は慌てて鍵を差し込み左に回します。そして、ドアを引くと
「なんで? 開かない!」
ガチャンと鍵がかかったままでした。もしかして、右回しだった? と右に回しますが、鍵は閉まったままです
(早く開いて!)
だんだんと黒い影が近づいてきている気がして、もう一度左に鍵を回すと、ドアが開きました
すぐに入り、鍵を閉めます
「ふぅ……疲れた……」
そのまま寝てしまいたいのですが、変なこともありジトリと汗がまとわりつきます
汗だけでも流してしまおうと、シャワーを浴びに風呂場へ入りました
ささっと洗い、パジャマに着替えます
「あ、換気しないと」
風呂場に戻り、カーテンを開けて窓を開けます
「きゃーっ!」
そこには、黒い影がピタリと張り付いていました
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