第671話 不安

人は不安になると、それを取り除くために騙されやすくなる


幸運の壺や、運気の上がる財布、石、ネックス、その他いろいろ


ある神社へ行ったときの事だ


次の日に受験のために県外に行くことになっていたので、合格祈願に来たのだ


賽銭を入れて参拝していると、声をかけられた


「そこの、どうじゃ? これを買えば不運を避けられるぞ」


見ると、小さなおばあさんがお守りを手にしていた


「いえ……大丈夫です」


見たところ、販売店の店員でもなく、ここの関係者にも見えない小汚いおばあさんだった


「そう言わずに。じゃないと、明日不幸が訪れるぞ?」


明日の不幸……もしそれがほんとうなら、なんであれ回避したい


「500円じゃ」


少し高いなと思いつつも、お守りを買った。少しでも自分の助けになるなら……と思って


次の日、いつもより早く目が覚めた。どんな夢を見たかは忘れたけれど、嫌な夢だったと思う


ベッドの横に置いてあったお守りが目に入った。それをカバンに詰めて、どうせ早く目が覚めたから、早めに会場へ行こうと思い立って電車に乗った


試験会場で、事故のために電車が運航遅延になったと説明があった


もし、予定通りの時間に家を出ていたならこの会場へ遅刻していたかもしれない


これが不幸回避であったならば、このお守りは本物だったのかもしれない


そう思うと、試験も自然と冷静に受けられた


ただ、次の日に電車事故の原因が、老婆の飛び込み自殺と聞いた時には……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る