第663話 定点観測
これは、研究室の仲間で合宿したときの事です
研究室は4名、私と女子1、そして男子1と男子2です
名前は伏せさせてもらいます。また、そこに引率の男の先生が1名加わっています
私たちの研究課題は山に居る動物たちを調べる事でした。けもの道を見つけ、そこにカメラを設置したりして記録するのです
また、他にも小川や沼などに住む生物なんかも調べていました。一人一人課題が違うからです
1日目はとりあえず機材を設置し、2日目にその結果を見て修正する事になりました
コテージではベッドの関係上、女子2名、男子2名、小部屋に先生という配置になりました
そして、さっそく1日目から問題が起きました。夜になぜかカメラが倒れたのです。もう少しで寝るところだったのに、カメラを起こしに行かなければなりません
カメラの設置は私の仕事でした。貴重な1日を地面を映すだけで終わらせていいはずがありません。しかし、一人で行動するのも怖いので男子1と一緒に行くことにしました
男子1も寝ようとしていたらしく、少し不機嫌でしたが、埋め合わせは必ずするという事で納得してもらいました
「うぅ、なんで夜の山ってこんなに怖いんだろうね」
「ふあぁ、ちゃっちゃと起こして寝たいぜ。この辺には狂暴な動物なんて居ないはずだから心配するなよ」
暗いだけで恐怖心を煽っているのですが、男子1は図太いのか気にしていません。それが心強くもあるのですが……そんなとき、近くの草むらが風も無いのにカサカサと揺れました
「わっ!」
「きゃー!」
男子1の悪い癖です。私があまりにびくびくしているので悪戯心が起きたのでしょう
「もう! 驚かさないでよ! いじわる!」
「はははっ、悪い悪い。でもほら、何も無いだろ?」
男子1はカサカサと音を立てた草むらを手で避けて何も無い事を示しました――が
「え?」
草が捲れる瞬間、何か白い物が見えた気がしました。男子1はそれに気が付いていないようです
私は気味が悪くなってので、早くカメラのところへ向かおうとせかしました
「わかったよ。ほら行くぞ」
懐中電灯を照らし、先を急ぎます。あまり人間の匂いを残すのはよくないのですが、とりあえずエサを増量しておびき寄せるしかありません
そして、カメラを起こしてコテージに戻り、映像を確認します
「よかった、ちゃんと撮れてる」
何も映っていませんが、とりあえず元通りです。じゃあ、寝ようかとテレビのスイッチを切ろうとした瞬間――どさっとカメラが倒れました。そして、その一瞬に肌色が見えました
「えー! せっかく直したのに! 動物が体当たりでもしたの?」
少しだけ巻き戻し、何が映ったのか確認する事にしました
「あ……」
私は声がでませんでした。そこに映っていたのはどう見ても人間の足でした。それも、靴どころか靴下すらはいていない素足で、見た感じ男のものです
一瞬、ああ、また男子のいたずらかと思いましたが、私たちが帰ってきてから当然誰も出て行っていません。それに、あんな小石や木の根っこでがたがたの道を素足で歩こうものならすぐに痛みで音を上げる事でしょう
私は見なかったことにして寝ることにしました。だって、あんなの見た後に一人で行けるわけないし! もう男子1も寝ているだろうからさすがに2回目は悪いと思う
一応先生には言っておくべきかな? と思ったので先生のところへ向かいました
小部屋を覗くと、毛布をかぶったまま寝ている先生が見えました。ああ、起こさないほうがいいかと思ったところ、何かぶつぶつと聞こえます
「すまない。ごめん。ごめんなさい」
先生は、ひたすら何かに謝っています。私は気味が悪くなり、そっと部屋へと戻りました。女子2はもう寝ています。私も寝ようかと毛布をかぶったしゅんかん
コンコンコン
と窓ガラスが叩かれました。カーテンが閉まっているので外は見えません。気のせい気のせい気のせい……誰も外になんて出てないし、鳥でも叩いたのだろうと思い込んで耳を塞ぎました
それからしばらく音は続きましたが、私はいつの間にか寝てしまっていたようです
朝になり、何事も無く1日が始まりましたが、カメラを確認しに行かなければならないので気が重いです
「はぁ……」
「どうしたのよ?」
「何でもない」
無駄に怖がらせることも無いだろうと思い黙っていることにしました。それに今はみんなが居るので怖くありません
カメラの場所へ着きました
「なんで……」
そこには、きちんと設置されているカメラがありました。もしかして、あの後誰か起こしに行ってくれたのでしょうか? しかし、確認するのも怖く、とりあえずカメラを回収してコテージに戻ります
そして、映像を確認する事になりました。私は一人でそれを見るのが怖かったので、女子2を誘ってみました
「どうしたのよ? まるで幽霊でも見たかのように怖がって」
映像を流すと、しばらく何も映っていませんでした。そして、カメラは横倒しのままです
しばらくして、私たちが用意したエサに子ぎつねが近寄ってきたのが見えました
「あ、かわいい」
女子2は画面が横倒しなのに違和感を感じていないらしく、映像を普通に見ています。すると、子ぎつねが急に逃げ出しました
「あ、どっかいっちゃった」
友人2は残念そうに言いました。そして、次の瞬間カメラが起こされました
「あれ? そういえば画面が横だったね」
女子2はいままで本当に不思議に感じていなかったようだった。私は、何が起こるのかと戦々恐々です
(何も……ない?)
しばらく、何も映らずに時間が過ぎていきました。それなら、少し飛ばそうと画面の早送りを押そうとテレビに近づいた瞬間
「「きゃー!」」
画面いっぱいに知らない男の顔が映りました。そして、数秒後画面から消えました
「先生! 先生!」
私たちは先生を呼んでその画像を確認してもらう事にしました。男は消えることなくきちんと映っていました。そして、その男を見た先生は、涙を流し始めました
「……すまなかった」
先生が言うには、先生が学生時代に一緒にここに来た研究室のメンバーだった。その学生は夜中に実際に動物を見てみたいと山へ入ったっきり帰ってこなかったそうだ。結局、道に迷って川に流されたのだろうという事になったらしい
「あいつが、生きていたのか……?」
「いい話……?」
ですねと続けようとして違和感を覚えます。生きているのならなぜいまだにここに居るのか。なぜ姿を見せないのか。まさか、昨日の夜の窓ガラスを叩いていたのは……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます