第649話 天国と地獄

キキーッ


「危ない!」


僕は車に轢かれそうになった子供を助け、代わりに轢かれてしまった


「大丈夫か!」


近くにいた人達が声をかけてくるが、体が寒くなって震え、耳も遠くなる


「もう少しで救急車が着く、それまで……」


僕の意識はそこで途切れた


「ここは?」


目が覚めると、そこは雲の上だった。そして、目の前には白い羽の生えた天使らしき人が居る


「ここは天国です。あなたは善い行いをしていたので天国へと来ることが出来ました」


「そうなんですか!」


僕が思っている天国とそう変わらない雰囲気に喜ぶ


「ここはあなたの思った通りになります。なので、しばらくの間ですが楽しんでください」


思った通りの場所になるのか。それなら、天国とは誰が来ようとも楽しい場所になるだろう。ただ、天使の言葉に引っ掛かりを覚える


「しばらくなんですか?」


ここが思った通りになる場所なら、それこそずっと居たい


「そうです。あなたは善い行いをしたので、すぐに転生する事が出来るでしょう」


「い、嫌だ! 僕はずっとこのままでいい!」


たとえ転生したとしても、記憶が無ければ全く意味が無い。それはもう他人の人生だろう


「そう言われましても……決まりですので。ただ、次の人生でも善い行いをすればまたここへ来れますよ」


ここの記憶が無ければ、善い行いをするかどうかは分からない。それならば……


「じゃ、じゃあ、地獄ってどんなところですか?」


「ふふっ、地獄もそんなに変わらないですよ。ただ、思った通りの罰を受けるだけです。体感時間で数千年分ですが、現実では数秒から数十年くらいですね」


僕は地獄というものを知ってしまっているので、絶対に地獄に行きたいと思わない。自分が嫌だと思う事が数千年も続くなんて……


☆ ☆ ☆


「ったく、なんでこんなめんどくさいことしなきゃならないんでしょうね。天国も地獄も一緒なんだからどっちでもいいでしょうに」


天使役の神様は、今日も無駄にいっぱいくる魂を転生させるのだった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る