第644話 セミ

子供の頃、セミを捕まえたことがある人は多いと思う


最近の子供は見なくなったかもしれないが、昔は公園の木にいっぱい居たのだ


セミは朝早く行くと、幼虫が地面から這い上がったばかりのものが見つかる


僕はそれを捕まえてきて、虫かごに入れた


しばらくすると、背中の殻が割れて中から白いセミが出てくる


さらにしばらく待つと、セミはだんだんと茶色くなる。アブラゼミだ


僕は指に絆創膏を巻き、セミを捕まらせる。絆創膏を巻いたのは、セミの口が指に刺さらないようにするためだ


そして、セミは口を絆創膏に伸ばし――


「いたっ!」


想定外に絆創膏を貫通してきた。僕はとっさに手を振り払い、セミが地面に叩きつけられる


何年もかけて地面の中で育ってきたセミが、生まれてから数時間で死んだ


僕は罪悪感にさいなまれた


そして、それからずっとセミの鳴き声が耳から離れない

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