第639話 熱帯魚
友人に誘われて廃屋へ行ったときの事です
廃屋と言っても、町から少し離れたところにある空き家で、持ち主が東京へ行ったとかで放置されているだけのなんの曰くもない家です
ただ、十数年放置された空き家は、曰くが無くても雰囲気だけはあるので、SNSのネタとして活用する事になりました
「うわー、まじで怖いな」
ところどころ崩れている壁、穴の開いた屋根、ぼうぼうに生え放題の雑草。少なくとも蚊に刺されたくないなら絶対に来たくない場所だろう
「とりあえず中に入るか」
東京へ行くときにかけ忘れたのか、玄関は鍵がかかっているが勝手口は空いているそう。日中に調べた友人がそう言っていた
実際、勝手口はあいていて、そこはすぐに台所になっていた。その横は居間になっていて、仏壇がある。当然、そこには何も置いてない。引っ越した時に持っていけるものはほとんど持って行ったのだろう
ただ、案外と片付いた部屋は外観と違ってあまり怖くない
「これじゃつまんねーから散らかすか」
「お、おい!」
友人は、ただ写真を撮ってもつまらないと思ったのか、おもむろにその辺のものを散らかし始めた
ドンッ
すると、2階で何か落ちたような音がした。びっくりして動きを止めた友人と僕。しかし、それ以降何の音もしない。2階に誰かいたというわけではなさそうだ
「ちっ、驚かせやがって。どうせなら2階も見に行くか」
よせばいいのに、びっくりしてバツが悪かったのか、格好つけたいのか、2階へと行くことになった
2階は2部屋あり、一つは寝室、もう一つは書斎の様だった
書斎には全く本は無く、水槽が置いてあるだけだった。水槽には、熱帯魚が泳いでいて――
「ひっ!」
僕はその瞬間、違和感に気づいて部屋から飛び出した
「どうしたんだよ」
「熱帯魚が生きている!」
「魚なんだから、生きてるだろ。誰かエサやりだけしてんじゃないか?」
逃げながら話す友人と僕。友人が言う通り、誰かがエサやりに来ているのならそれはそれで不法侵入が見つかったらやばいのだが、それよりも
「熱帯魚は温度管理しないと絶対に生きられない! コンセントも刺さっていない熱帯魚が生きてるわけない!」
「そうなのか? じゃあ、本当に生きてるかどうか見てくるわ」
「やめろ!」
僕のいう事を聞かず、友人は熱帯魚を見に行った
僕はそのまま勝手口から外へ出た。その瞬間、後ろからドンッという音がした
振り向くと、空中に魚の骨がゆらゆらと泳いでいた
僕は怖くなって急いで家へ帰った
しかし、友人が戻ってくることは二度となかった
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