第634話 遅刻

私が中学生だったとき、遅刻したことはありませんでした


しかし、なぜかあの日は目覚ましが鳴らず、さらに親が不在という事で誰も起こしてくれることもありませんでした


「私の、皆勤賞が!」


小学校から一度も学校を休んだことが無い事が私の唯一自慢できる事柄だったので、一生懸命に走りますが、家を出た時点で遅刻確定の時間でした


それでも、一秒でも早く学校へ着いて、運が良ければ先生が来る前に着席できるかもと、ありえないことを考えながら走っていました


そして、普段通らないような狭い道を通ってみようと思いました


「ここ、近道かも!」


冷静に考えれば、人一人ぎりぎり通れるくらいの道を行くよりも、普通に走れる場所を通った方が早いのですが、当時の私は近道する事が目的になってしまっていました


生垣に挟まれた狭い道、それも曲がっていて一体どこへつながっているのかも分かりません


空は曇り、今にも雨が降り出しそうなほど暗くなってきました


上を向いていると、生垣からずぼっと腕が生え、私の腕をつかみました


「ぎゃあ、きゃあ! いやっ!」


女の子らしくない叫び声をあげて、腕を振りほどきます。すると、生垣の両側から無数の腕が生えてきました


「ぎゃああー!」


私は、小枝や何かにひっかかりつつも、来るとき以上のスピードであともどりしました


そして、少しでも人が居る場所に行きたいと、一生懸命に学校へ走りました


結果は遅刻でしたが、人が居る事に安心し、大泣きしたところ、何かの病気かもしれないと保健室に連れられ、結果的に遅刻扱いになりませんでした


保険の先生に、何があったか話したところ


「へんねぇ。あそこの家のおばあさんは数年前に首つり自殺をして、今は誰も住んでいないはずなのに」


私はそれ以降、絶対にあの家の近くを通る事はありません

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