第633話 教育実習

教育実習生として、ある小学校へ行ったときの話です


その小学校は、小中一貫校で、小学生の同級生がそのまま中学でも一緒になるという事で、大変仲の良い子達でした


私は、その中の一クラスで実習を行う事になりました


当然、慣れていない私の話はつたなく、小学生たちもあくびをしたり、隣の子としゃべったりと授業に集中してくれません


「み、みなさん、ちゃんと授業を聞いてください」


「だって、せんせーの話つまんねーんだもん」


そう言ってクラスのリーダー格の子がいうと「そーだ、そーだ」と周りの子たちも同調していう事を聞いてくれません


「はぁ、私、先生に向いてないのでしょうか……」


「ははは、最初はみんなそんなもんですよ」


そう言って担当の先生は励ましてくれますが、同じ学校の他の子達はそれなりにうまくやっているようです


ある日、クラスの子が1名居ません。すると、リーダー格の子が


「探し行くぞ」


と、授業中にも関わらずその子を探しに行ってしまいました。さらに、他の子達もついていってしまいます。さすがに見かねた担任が連れ戻そうとしてくれましたが


「いま、あいつはやばい状況になってる!」


そう言って担任の手をふりきっていきました。仕方がないので、授業を中断してその子を探すことになりました


この学校の中庭には、代々の校長先生の銅像があって、イースター島のモアイのように並んでいる場所があります


その子は他に目もくれずそこへ向かいました


「おい、大丈夫か!」


リーダー格の子は、まっさきに一番古い銅像の方へ行きました。すると、そこには倒れた銅像と、それに足を挟まれている男の子の姿がありました


幸い、地面が土だったので足は完全につぶれることはありませんでしたが、担任が病院へと連れていく事になりました


「どうして、あそこにいるってわかったの?」


「当たり前だろ、俺は学校の事をなんでも知ってるからな」


そんなことがありましたが、私は無事、実習を終えて先生になりました


そして、数年がたったある日、再びあの学校へと訪れる機会がありました


当時担任だった先生はすでに他の学校へと赴任された後でしたし、あのクラスの子達もすでに中学へと行っていました


そこで、後任の先生と話をしていたところ、ふと中庭から視線を感じました


「あ、あの子は」


あのリーダー格の子です。なぜ彼が小学校の中庭に居るのでしょうか


私は中庭へ向かいましたが、そこには誰も居ません。事故があったからなのか、銅像はすべて撤去されていました


「……え?」


私は、確かに銅像の間から校舎の中にいる私を見るリーダー格の子を見たのです。なのに、中庭には銅像が無い


私はあわててさっきの場所へと戻り、もう一度中庭を見ました。すると、さっき見えたはずの銅像が見えません


「そんな……嘘……」


私は、今の担任の先生に昔の話を詳しく聞きました


すると、当時リーダー格の子が銅像にのぼって遊んでいたところ、倒れて骨折する怪我を負った事になっていました


私は当時の事故を知っているので、訂正すると


「嘘じゃないよ。実際、その子は怪我がもとで歩くことが出来ず、養護学校へ転校していったからな」


私は一体、何を体験していたのでしょうか。真実を知るために、リーダー格の子を訪ねたいと思います

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る