第629話 バイクで

大型バイクで走っていた時の事




これでも十数年運転しているので、運転が下手という事は無いと思う




気分転換に風を感じたくて海沿いの、一直線で信号のない道を走っていた




時間は朝の4時半。そろそろ朝日が見えてくるころだ




たまっていたストレスを発散するには、日本海から上がってくる太陽を見るに限る




そろそろ目的地に着くころだ。すると、右側から追いこされた気配がした




フン――




そんな音がしたような気がした




しかし、一直線の道で、さらに言えば隠れるところなどどこにもない道




それにそもそも今追い抜かれたばかりであるのに、目の前には何もない




そう思った瞬間、目の前に落とし穴が出来た




「うわっ!」




俺は久しぶりに盛大にこけた。幸い、バイクの下敷きにはならなかったが、ボディには確実に傷がついた事だろう




「やっちまった……」




痛む左足、やぶれたズボン、傷がついたバイク……気分転換にきたのになんてことだ




落とし穴だと思ったのは、単なる水たまりだったのだ。ちょうど明るくなりかけでそこだけ暗く見えただけのようだ




「くそっ」




バイクを起こそうとしたが、左足に力が入らず起こせない。バイクを起こそうと、力を入れると激痛が走る。骨折はしていないと思いたい……




「まいったな……」




そんな中でも、太陽は上がる。綺麗だな……そう思って海を眺めていたら、ガチャンとバイクのスタンドが立てられる音がした




「えっ?」




振り向くと、俺のバイクが起こされていた。しかし、起こしたはずの人物がいない




「一体だれが?」




すると、また フッ――と風が通り過ぎた気がした




しばらくボーッと朝日を眺めていると、左足の痛みも引いてきた。骨折はしていなかったみたいだ




バイクを運転しても大丈夫そうだ




もしかしたら、見えないバイク乗りが俺と一緒に走っていたのだろうか?

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