第628話 マフラー
古着屋を覗いてみた
古着屋には、たまに掘り出し物もあるので定期的に確認している
と言っても、店長もその道のプロなわけで、ビンテージものだとか希少価値が高い物とかが格安で売っているという事はない
それでも、いいものが売っていることがあるのでこうやって見ているわけだが
「なあ、店長、なんで古着屋にマフラーなんてあるんだ?」
それも、既製品ではなく明らかに手作りだと分かるものだ。そんなものが商品として売れるわけもなく、実際に値札すらついていない
「まあ、古着を売りに来た女性たっての願いだったんでな」
「そんなの、体よく断るか、適当に売れたと言って捨てればいっしょ。何を売ってったんです?」
「それがな、この……だよ」
「マジで?! それ、レアなんてもんじゃないじゃないっすか!」
「そうなんだよ。それも、俺が値段を決めるより先に500円でいいからって。その代わり、そのマフラーも買ってくれって頼まれたわけだ」
「その女性、完全にこれの値段知らないっすね。マニアに売れば数十万はくだらないのに」
「ああ。だから、俺は二つ返事で買い取ったんだが……」
「何が問題なんすか?」
「このマフラー、売れねーんだわ」
「あたりまえじゃないっすか。こんな手作りもいいところの」
「それは分かっている。だから、売らないんじゃなくて売れないんだよ」
「じゃあ、捨てればいいんじゃないすか」
「それで解決するならとっくに捨ててるわ。俺が捨てなかったと思うか?」
「そっすね……」
そこから店長の愚痴というか、体験談を聞かされた。捨てた日の夜、寝ていたら息苦しさを覚えたらしい。で、目が覚めたらいつのまにかこのマフラーをしていたそうで
「当然、この夏にマフラーなんてするわけないし、そもそも捨てた奴だ」
気味が悪くなって、その場でハサミで切り刻んでゴミ箱に捨てたそうだ。そして、再び寝ると……
「首を絞められる夢を見て、起きたら実際にクビにマフラーが食い込んでいた。無理やり引き離したら、ぶちぶちって音がしてな……」
手を見たら髪の毛が絡みついていたそうだ。店長はハゲだから、明らかに異常事態だろう
「だから、こうして飾ってだけいるんだ。今のところ特に異変はないが……はぁ、どうするかな」
俺は女性が売ったというレア品も、ただものではないと思い店を後にした
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