第625話 プールで

夏のある日、プールへ行った


暑かったせいか、泳ぐ隙間が無いほどにプールは混みあっていた


「これなら、海へ行った方がよかったかな……」


どうせ海もいっぱいだろうけど、見ていなければ分からない


今から海へ向かうのもなんだし、なにより有料駐車場に停めたので、何もせずに帰るよりはいいかと思い泳ぐことにした


ロッカーもいっぱいだった


何とか空いたロッカーを探して着替え、プールへと向かう


「なんで一人で来たんだろうな……」


今更一人で来たことを後悔した。計画性の無い自分にがっかりだ


どうせならと、プールで美女でも居ないかと探す


休日とあって、ほとんど親子連れで、いいなと思った女の人も人妻だった


「お、あれは」


一人、プール内を歩く美しい女性が見えた。白いビキニでロングの黒髪、何より切れ長の目がぞくりとするほど美しい


一人で来ているのか、すいすいと人の間を縫って歩いて(泳いで?)いく


あれだけの美人なのに、誰も目を向けない


「見ないなんてもったいないな」


どうせ暇だし、ダメもとで声をかけようと追いかける


しかし、人も多くなかなか進めない。それなのに彼女はまるで人が避けるかのようにすいすいと水中を歩いて行った


そして、中央にある高い構造物の裏へと入り、見失ってしまった


「ちぇっ、声もかけられなかったか」


そのままぷかぷかとその場に浮いて暇をもてあます


すると、構造物の裏から悲鳴が上がった。何やら事故でも起きたらしい


野次馬根性で見に行くと、プールのはしに一人の男性が横たわっていた


救助したのか、プールの監視員らしき人もプールから上がるところだった


「何があったんですか?」


その辺にいた人に聞いてみる


「ああ、なんか心臓発作らしいよ。急に沈みだしたとかで」


見たところ、心臓に持病を持っているような年には見えなかった。というか、俺と同じ年くらいだ


視界の端に白いものが横切るのが見えた


そちらに顔を向けると、さっきの白いビキニの美女だった


彼女は、切れ長の目でその横たわる男性を見て、舌なめずりする。すると、男性はビクンとして動かなくなった


その女性が何かしたのかは分からないけれど、俺はその女性が原因だとある種の確信を覚えた


そして、声をかけようと追いかけたけれど、やはり人込みをすいすいとさけてゆく彼女に追いつくことは出来なかった


次の日の新聞には、あのプールで死亡事故があったと書かれていなかったので、亡くなっては居ないのだろう


また、プールへ行ったらその女性に会えるだろうか。俺はどうしても、その女性に会わなければならないと感じている

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る