第624話 轢き逃げ
俺は数年前、両親を交通事故で亡くした
近くのスーパーから徒歩で帰宅途中、猛スピードで突っ込んできた車にはねられたのだ
その日は天気も悪く、強風と大雨で事故の証拠が見つからず、今も犯人が見つかっていない
そんな俺にも親友が居る
「なあ、俺はもう生きていたくないよ。将来、楽しく暮らせる気がしない」
「そんなこと言うなよ! そうだ、どうせ死ぬつもりなら宝くじでも買ってみないか?」
まあ、遺産もあったし、どうせ死ぬなら自分の運試しをしてみようと思った。両親が死ぬ不幸に釣り合う幸運が訪れるかもしれないと思って
親友も半分出すと言ってくれた。俺の遺産に釣り合うだけのお金を借金してまで揃えてくれたのだ
「そこまですること無いだろ。お前には彼女もいるし、両親だって健在だ。迷惑になるんじゃないのか?」
「親友が死のうとしているんだ。俺は少しでもお前が生きる確率を上げたいんだ」
俺はその言葉だけで涙が出そうになった。恥ずかしくて今更泣き顔なんて見せたくない
何千万という金を宝くじに使う。売り場の人も驚いていた。それはそうだろう、宝くじの2等相当の金額分宝くじを買おうと言うのだから。宝くじの分配率を知っていればそれはあり得ない行動に見えるのも仕方がない
そして……なんと1等が当選した。代表して俺の口座に数億円が振り込まれた。そして、俺の死ぬ気なんていっぺんに吹き飛んだ。だって、これだけの金があれば文字通り遊んで暮らせるのだ
そのとき、俺の脳裏に邪な考えがよぎる。このまま金を持ち逃げすればいいんじゃないか、と
そして俺は実行に移してしまった
しかし、罪悪感から数か月後、親友の元へと足を運んだ
親友は借金を返すために、身の回りの物が差し押さえられ、彼女とも別れたようだった
「悪い、まさかこんなことになっているなんて……」
俺はそれ以上の金を渡そうと決意した。それなら、彼女も戻ってきてくれるだろうし
すると、話し声が聞こえた。親友の声だ。俺は声をかけようとそちらの方へと向かった
「俺はあいつに、報いる事ができただろうか。俺は後悔していた、あいつの両親を轢いたのは俺なのに、素直に話すことが出来ずにいた。せめてもの詫びとして宝くじを買うのに精いっぱいの金額を出したつもりだ。本当に、あいつがお金を分けようと言い出しても断るつもりだったしな」
親友は庭にある簡素な墓に向かって話しかけているようだった。誰の墓だろうか
「だから、俺が生きるために仕方なかったんだよ」
そこには、親友の両親と彼女の名前が書かれていた
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