第618話 近所の子

近所に気になる女の子がいる




僕と同じ学校に通っている女の子だ




母親が言うには、小さいとき、よく一緒に遊んでいたらしいんだけど残念ながら記憶にない




学校では静かで、本ばかり読んでいるイメージ。でも、図書委員じゃなくて生物係




小さなウサギ小屋があって、そこに毎日えさをやるのと掃除をするのが仕事




男一人、女二人の生物係のはずなのにその子以外が面倒を見ているのを見たことが無い




内気なのをいいことに、押し付けられているのだろうか?




「僕も手伝うよ」




見かねて僕も手伝う事にした。彼女は少し困った顔をして




「私が好きでやっていることだから、手伝わなくても大丈夫だよ」




なんて言っている。そんなところを好きになってしまった




家はもともと近所だから、帰り道も一緒。でも、彼女は目立つのが嫌なのか僕と一緒に帰ったりはしない




「ちょっとウサギの様子を見てから帰るから」




とかで時間をずらされてしまう




ある日、ウサギに子供が生まれた。全部で六匹かな?




「係だから、私が先生に言っておくね」




それはそうかと、僕は彼女に任せることにした




朝のあいさつのとき、先生が言った




「生物係で世話をしてもらってるうさぎに赤ちゃんが生まれたのよ。全部で五匹も!」




僕は「あれ?」と思った。僕が数えたときは六匹だったと思ったんだけど




帰る前に確認したときは五匹だったから、僕の数え間違えだったのだろう




「今日は私、先に帰るね。悪いけど、あとはお願い」




彼女はそう言って早めに帰り支度を始めた。僕はこれは一緒に帰るチャンスだと思って、ウサギには悪いけど掃除を一分ほどで終わらせて彼女を追う




2~3分差くらいだから走ればすぐに追いつけるはず。そう思って彼女を追った




しばらくして、彼女の後姿が見える。遠くから声をかけようとしたけれど、もう少し近づいてからの方がいいか




そう思っていると、彼女は帰り道と違う方向へ行く。そっちは川がある方だ




何しに行くのかと思って、声をかけずに追いかけることにした




彼女は橋の下に降りると、小さな手提げ袋をカバンから取り出す




そして、中からウサギの赤ちゃんが出てきた




(あー、やっぱり六匹だったんだ。どうしてもウサギを飼いたくなったのかな?)




それなら、僕は見なかったことにしようと思った。彼女にはウサギを飼う資格があると思ったから。彼女の親がなんていうかは分からないけれど、僕が告げ口をする事は無い




見なかったことにするのだから、一人で帰るかと立ち去ろうとしたとき




彼女は近くにあった拳大の石を拾った。僕はもう少し様子を見ようと思ったのが間違いだったのだろうか




彼女は、ウサギの赤ちゃんを平たい石の上に置くと、右手に握った石を思いきり振り下ろした




ビチャッ




その瞬間、まるで水風船が割れたかのように、赤い液体が飛び散った




(え?)




僕はびっくりしすぎて声も出せず固まった




彼女は、潰したウサギを嬉しそうに見つめると、そのまま河原に埋めていった




僕は思い出してしまった。彼女が「そういう遊び」が好きだったことを




それからしばらくして、もう一匹、ウサギの赤ちゃんが減った


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