第611話 スパゲティ

あるお店に入ったときの事だ




たまには自然の多い場所へ行こうと思ったのが間違いのもとだったのだろうか




田舎の旅館を予約して、さて暇つぶしを……と思ったら付近に全く店が無かった




自然は多いが、それだけで、1時間もすればもう満足してやることが無い




機種が悪いのか、ここでは携帯の電波も悪く、全くつながらないわけではないがゲームをしようとしても読み込みが遅くてイライラする




歩きまわっていたせいか、腹も減ってきた




何かないかと、アスファルト舗装してある道を歩いていると、喫茶店風の一軒の店があった




中に入ると一瞬、休みなのではないかと思ったほど誰も居ない




「すみませーん」




「はーい」




一応、店はやっているのか一人の男性が出てきた




「お食事ですか?」




「はい」




「それでは、好きなお席にどうぞ」




案内は無く、好きな場所に座っていいというので、窓際の席へ行く




しかし、掃除が行き届いてないのか、窓には蜘蛛の巣があった




そのため、少し中央寄りのテーブルにする




着席すると、さっきの男性が水を出してくれた




はやっていないからか、店主一人のようだ




「メニューが決まりましたらお呼びください」




そう言って、キッチンへと入っていった




メニューは手書きで、品数は多くない。さらに言えば、平日は人がほとんどこないのを見越してか、作り置きするものではなく、注文が入ってから用意できるようなオムライスやラーメン、スパゲティのような物が多かった




夕食まで数時間なので、そんなに量の多くなさそうなスパゲティを頼むことにした




「すみませーん」




「はーい」




呼ぶと、店主が出てきて注文を取ってくれた。そしてなぜか、そんなに暑くもないのに店主は頭につけていた白い帽子のようなものを取って頭を拭いた。店主の頭は禿ていたのだ




雑誌なんかは置いてなく、新聞だけはあったので、それを読みながら時間をつぶす




幸い、出された水はおいしかったので、ちびちびと水を飲んでいた




「お待ちどうさん」




出てきたスパゲティは、ナポリタンだった。さっそく一口ほおばる




すると、口の中に何か残るものがあった




それをつまみ出すと、一本の長い髪の毛だった。店主は禿ていたので、自分の髪が入ったのだろうかと思ったが、自分の髪よりも長い




それなら、製造工程かなんかで入ったのだろうと、大して気にせずにもう一口食べる




しかし、その一口にも髪の毛が入っていた。それも数本も




「すんませーん」




店主に事情を話す。すると、店主は少し顔色を悪くして




「す、すぐに作り直します!」




と言って、食べかけのスパゲティをもって慌ててキッチンへと入っていった




別に怒るつもりもなかったので、またのんびりと新聞を読みながら待つ




「お待たせしました!」




念のため、出されたスパゲティを確認して、髪の毛が無い事をしっかりと見た




それで店主も安心したのか、ほっとした表情でキッチンへと戻っていった




じゃあ、再び食事をと、スパゲティを一口食べる




するとまた口に残るものが……




それは十数本束にしてねじってあるような髪の毛だった。さっき確認したときには絶対にこんな目立つものは入っていなかった




「す、すいませーん」




もう一度店主を呼ぶ。そして、髪の毛について尋ねる




「……お代はいりませんので、お引き取りください……」




店主はそれだけ言うと、スパゲティを持ってキッチンへと入っていった




しばらく呆然としていたが、どういうことかと事情を聞こうとキッチンへ向かった




しかし、そこには誰も居なかった。ただ、そこにはなぜか神棚があり、そこにさっきの髪の毛が供えられていたのだった

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