第610話 ヤギ

北海道へ行ったときの事だ


新鮮な牛乳が飲めると、乳牛の乳しぼりを体験する事になった


それなりに有名なのか、家族連れなどを含めて7~8人居る


正確な人数じゃないのは、体験者なのか、ここのアルバイトなのか分からない人が1名居るってだけだが


親子連れの三人は、牛を見られただけで喜んでいる子供を見て微笑んでいる


70歳くらいのじいさんばあさんは、もしかしたら地元の人なのか慣れた手つきで乳しぼりをしている


あとは、俺みたいな若者とおじさんが2人か


乳絞りがうまくいかなかったので、絞り方を再度教えてもらっていた時


「めぇ~」


振り向くと、牛しかいない


「あの……ここってヤギも飼っています?」


そう、教えてくれているおじさんに尋ねると、少し険しい顔になった


「……昔は飼っていたけど、今はいねぇよ。あいつら、なんでも食うからみんな結構飼ってたんだ」


そういうものか。でも、今いないならあの鳴き声は何だったんだ?


「めぇ~、めぇ~」


しばらくして、もう一度甲高い鳴き声が聞こえた


「やっぱり、ヤギが居ません?」


そうおじさんに尋ねるが、「居ないって言っただろ」とすげない答えだった


気のせいだったのか……そう思って乳しぼりに集中する


すると、肩を軽くたたく感触があった


振り向くと、顔が陥没した3歳くらいの子供が立っていた


「めぇ、めぇ」


にちゃりと血の糸を引いた口を見て、俺は気絶した


今思えば、あれはヤギの鳴き声じゃなくて、最初から子供の声だったのかもしれない

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