第608話 市民プールで

小学生のころ、プールへ通っていた時の事です


そのプールには、学校は違いますが、かわいい女の子がいて、僕はその女の子を好きになりました


好きな子が通っている……その時間だけ一緒になれるとう不純な思いが招いた事なのでしょうか


その日も特に普段と変わらず、泳いでいました


ただ、その日いつもと違う事があったとすれば、目の前を好きな子が泳いでいることです


至近距離を好きな子が水着で泳いでいる……その事だけがいつもと違っていることだったと思います


自分の先に、一足先にバタ足で泳いでいく彼女。僕はの後を泳ぎ、次の順番まで彼女の後ろを付いていく


そして、とうとう我慢できなくなった僕は、彼女に触れようと手を伸ばし――


その瞬間、プールから誰も居なくなりました


目の前の彼女はおろか、今まで泳いでいた小学生の生徒たちや先生まで


プールの外から響くセミの鳴き声だけが現実だと知らせているようで、僕はプールの真ん中でぽつんと立ちつくしてしまいました


ばしゃん


何かプールに飛び込む音がしました。僕は誰かが来てくれたのだと喜び、振り向きました


しかし、それは決して僕を助けに来た誰かではありませんでした


泳いできたのは、人間の体に真っ黒な頭をした何かでした


僕は泳いで逃げようとしましたが、向こうの方が早かったのでプールから出る前に追いつかれそうでした


「ごめんなさい!」


僕は謝りました。何を謝ったのか、何に謝ったのかも分かりませんが、とにかく謝りました


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


何度謝ったか分かりませんが、その間にとうとうその黒い頭の奴が僕に手を伸ばし――


そこで現実に戻されました。僕が伸ばした手は彼女に届く寸前で止まっていました


これは彼女の守護霊か何かが引き起こした事なのかは分かりませんが、そこで僕はプールをやめてしまったのでそれ以来彼女と会う事はありませんでした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る