第606話 誰が

私は目がよくありません




いつもは眼鏡かコンタクトレンズをしています




ある旅館の温泉に行ったとき、私は眼鏡を外して2階のお風呂に入浴していました




その風呂は、2階が女性用、1階が男性用になっていて男女の風呂場を間違えることはありません




一応24時間入れますが、1時間だけ掃除する時があるそうです




その時間は掃除の具合やお客の込み具合から12時から4時の間と、決まっていないそうです




掃除中は入り口に清掃中と出すそうなので、掃除中に間違えて入る事は無いでしょう




そして、頭を洗っているときにガラリと風呂の扉を開く音がしました




(こんな時間に来るなんて、珍しいな)




私は人の事が言えないので、気にせずに洗髪を続けていました




目の前に鏡があるのですが、くもっているうえに眼鏡をしていないのでぼんやりとしか見えませんが、後ろを通る人の姿が映りました




(太った……男性?!)




まさか……と思い、あわてて振り向きましたが、ぼやけて見えません




ただ、時間としては夜に目が覚めてふと入りたくなったため、12時を過ぎていたかもしれません




ですから、もしかして掃除に? それなら入る前に声くらいかけてよ! と憤っていました




急いで風呂場から出て慌てて着替え、カウンターへ文句を言いに行こうと風呂場の暖簾をくぐりましたが、掃除の札が立っていません




(掃除の人じゃなくて、完全に不審者?)




それなら、正体を見てから通報してやろうと、風呂場の前で待ち構えていました




すると、一人の男性がこちらに近づいてきました




「おや? こんな時間に珍しいね。ほかに入っている人が居なければ掃除するけど……」




「中に男性が居ます!」




私は、男性の言葉をさえぎって訴えました。男性は一瞬びっくりした顔をしましたが、事態を把握したのか、顔を険しくして暖簾の奥を見つめています




「分かった。見てくるからここで待っていなさい」




そう言って男性は風呂場へ入っていきました




しばらくして、風呂場から男性が出てきました




「一応、隠れられそうな場所はすべて確認したけど、人影は無かったかな。もしかしたら、僕が入ってきたのがわかって外へ逃げたのかもしれないが、一応付近で誰か見ていないか確認してみるよ。君はもう部屋へ戻るといい」




「分かりました。ありがとうございます」




私は男性にお礼を言って部屋へ戻りました




次の日、サイレンの音で目が覚めました




「な、なにがあったんですか?」




私は2階の風呂場の前にいる数人のお客さんのうち、話しやすそうなおばさんに話しかけました




「なんでも、今朝方1階の風呂場で男性の首つり死体が見つかったって……。状況から、2階から首に縄をかけて飛び降りたらしいわよ」




もしかして、私が見たのはその人だったのでしょうか




「まさか、掃除夫が自殺なんてねぇ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る