第605話 足跡
「ったく、なんでこんなところに家なんて建てたんだよ……」
俺は郵便局で働いている。今日は、ある場所へ手紙を届けに来たのだ
久しぶりの大雪で、道は雪で埋まっていた
と言っても、積雪は20cmほどでバイクでは行けないが長靴を履いて歩けば行けるという感じだ
問題は、その場所だ
「はぁ、誰も来たがらないはずだよ……」
そこは墓地の中だった。住職なのか、関係者なのかは知らないが、そこに家があり、そこに配達物がある時点で俺に配達しないという選択肢は無い
「足跡一つない……と思ったら、狸か犬かの足跡はあったわ」
俺は気を紛らわせるたまに適当に周りを見渡しながら歩いていた
地図を見ても当然墓の中の道は載っていない
高低差があり、木があり、墓がありで家は今の場所からは見えない
とりあえず、地図上で建物がある場所まで歩くことにした
墓の間を通り、曲がり、くねり、階段を上る
「っち、こっちじゃなかったか」
曲がりくねりしている間にまっすぐ進めていなかったらしく、共同墓地へ出た
地図によれば、そこは目的地と反対側だった
「仕方ない、反対に向かって歩くか」
反対に歩き始めてしばらくすると、誰かが通った足跡があった
「多少は歩きやすくなったか」
最初は人一人歩いている足跡だったが、墓地へ続く小さな道とぶつかるごとに2人分、3人分と増え、いまでは結構踏みしめられた道となっていた
「こんな雪でも墓参りするやつって居るんだな」
そうしているうちに、遠目に一軒の家が見えた。足早にその家に向かう
家についたが、人の気配は無かった。しかし、ポストはポツンと家の玄関に置いてあったのでその中に手紙を入れる
「さて、仕事も終わったしさっさと帰るか」
体感時間で20分ほどかかったように思う。普通に歩けば5分、バイクなら1分で着くであろう距離だったが
その家からバイクまで最短距離を歩こうと、来た道とは違う道を歩く
「おっ、こっちにもちゃんと足跡があるな」
俺はその数十人が歩いたであろう足跡を踏みしめて、楽だ楽だとバイクへ向かう
「……は?」
気が付いたのはバイクが見えてきたときだった
その足跡は、すべて俺のバイクに向かっていた。行くときには足跡一つなかったのに
そして、足跡は俺のバイクに着くとまるでそこに居るかのようにピタリと続く足跡が無かった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます