第596話 洞窟
近くに洞窟を見つけたと、友達が走って知らせに来た
「この向こう、最近建っていた古い家を解体した跡地にあったんだ!」
息をはずませて今は空き地となった場所を指さしている
「だけど、そんな洞窟ならそんなに深くもないだろうし、ここはそもそも山じゃないしね」
僕は冷静に友達にその場所へ行かないように誘導する
「でも、珍しいでしょ? 珍しいよね! 行ってみるだけ行ってみようよ!」
普段はこんなに積極的じゃないのにどうしたんだろう?
友達は僕の手を無理やりにひっぱり、そこへ向かう
「わかった、わかったから! そんなに引っ張らないでよ」
「はやく、早く行こうよ!」
友達は逃げないようにか、僕の背中を押す
きれいに家がなくなった空き地についた
家はなくなったけれど、生け垣のようなものは残っていてがけ付近に洞窟があるかどうかはわからない
「どこにあるの?」
「こっち、こっちだよ」
友達はまた僕の手をひっぱって生け垣の向こうへ行く
生け垣を抜けると、確かに洞窟のようなものがある
何のために、誰が作ったのかは分からないけれど、見た感じ自然にできたものではなさそうに見えた
きっちりと大人が立って歩ける高さ、2人は並んで歩けるような幅、何よりその高さも幅も奇麗に凸凹がない
「そ、そうだ。懐中電灯を持って来ようよ。あ、もうすぐ暗くなるだろうし、明日また来よう?」
僕は奥に行きたくなかったので、友達を帰るように仕向ける
「大丈夫だよ。あと少し、あと少しだから」
そう言って僕の手を引っ張っていく
なぜあと少しだと知っているのか。この友達は、本当に僕の知っている友達なのか
嫌な気持ちがどんどんと湧いてくる
思ったより深かったのか、数十メートル暗い洞窟を進むと、行き止まりに行き当たった
「ほら、何もなかった。暗くて何も見えないし、帰ろう!」
「……」
友人は無言のまま壁を見つめる。しかも、僕の手を離さない
「ねえ、ねえってば!」
目が暗闇に慣れ、壁に何かがあると気付いてしまった
壁には大きな顔が彫ってあった
実物を見たことはないけれど、真実の口とかいうやつに似たような、大きな顔だ
真実の口と違うのは、口を閉じていて、その代わりに目がじっとこちらを見ていることだ
気が付くと、僕は洞窟の外に居た
そして、辺りは真っ暗だった
怖かったけれど、洞窟に向かって友達の名前を呼ぶ
しかし、返事はなかった
僕は友達はもう帰ってものだと判断して、家に帰った
家に着くと、夜の9時をまわっていたらしく、親に怒られた
友達と探検していたと言い訳をしたけれど、めちゃ怒られた
次の日、友達が帰ってこないと友達の親からうちへ連絡が入った
僕は親にあの洞窟の事を伝えた
親は見に行ったけれど見つからないと、僕に一緒に来るように言った
僕は正直行きたくなかったけれど、確かに分かりづらい場所だったなと思い、案内することにした
しかし、確かに昨日あった洞窟はもうなかった
洞窟のあった場所は大きな石で埋まっていたからだ
それ以来、今も友達は見つかっていない
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