第595話 船

気が付くと船の中だった




大きい船なのか、揺れはほとんど感じない




廊下のど真ん中に座っていたが、辺りに人の気配は無く、静かに無機質なドアが並んでいるだけだった




近くにあるドアノブをつかんでみたが、どうやらカギがかかっているらしく開かない




薄暗い廊下で不安を覚えた私は、とりあえず外に出たくなった




どちらに向かえばいいのかわからないけれど、とりあえずまっすぐに進む




ほどなくして、階段が見つかった




下へ降りる階段が無いところを見ると、ここは船底なのだろうか?




カンカンと鉄でできた階段を上る




なぜ私はこんなところに居るのだろう




そう思うと、足早に階段を上った




上の階へ行くと、少し広い場所へ出た




直接甲板にはつながっていないのだろう




少しだけ豪華になったドアの間を走る




いったん止まり、近くのドアノブをひねる




やはり、鍵がかかっているようだった




もしかして、閉じ込められたのでは




そう思うと、居ても立っても居られず、全力で走る




息が切れるほど走ってやっと突き当りについた




結構大きな船なのだろう




上の階への階段を上ると、扉が見えた




「この先危険につき出入り禁止」




甲板につながっているかと思われる扉にはそう書かれていた




ここまでに全く人気が無かった。それなのに、何の危険があるのだろうか?




閉じ込められるよりましだと思い、ドアノブをひねる




ガチャリ




カギはかかっていなかった。そっとドアを開くと、中は駆動系の機械の中のように歯車などが動いていた




確かに危険だ。もし、服の一端でも巻き込まれればひとたまりもないだろう




服を握りしめ、巻き取られないようにしてゆっくりすすむ




歯車の間を抜けると、またドアがあった




それを開け放つと、外につながっていた




そこは甲板ではないけれど、海を見渡せるような場所だった




辺り一面が海




島などは見えず、また、通りかかる船も見えない




外は明るく、だというのに全く人の気配がしないというのが不気味だった




これは夢だな




そう思った時、ふと目が覚めた




夢の中と違い、現実は雨が降っていた




静かに降る小雨は、夢の続きのように寂しさを感じた




今日はごみを出す日だったかな




そう思い、着替えてゴミ出しの準備をしようと部屋を出た時




今出た部屋の中から、何かの叫ぶ声が聞こえた




すぐにドアを開けて声の主を探す




しかし部屋の中には誰もいなかった




ただそこには、逆さになって置いてある人形が1体あるだけだった


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