第578話 タクシーで

「ふあぁあぁ~あー、ねむてぇなあ」




俺はタクシーの運転手をしている




今日は、旅行者を連れて観光名所を1日中回っていた




もうかったけれど、さすがにクタクタだ




だけど、会社の車を勝手に乗って帰るわけにもいかず、結構な距離を走って会社へ戻っている途中だ




金をケチって高速を使っていないので、なかなか道が混んでいて先に進まず、眠くなってきた




旅館に客を送ったのは21時で、今はもう22時をまわろうとしている




「くそ、どっかに抜け道でもねぇかな」




この辺はあまり来ないので、細かい道まで覚えていない




カーナビを頼って抜け道が無いか探す




すると、一本細い道ではあるが、迂回できそうな道があった




カーナビ上で黒い空間を横切るように、真っすぐな道だ




「よし、ここへ行ってみるか」




左折のウィンカーを出してその狭い道を行く




カーナビ上では分からなかったが、結構坂があったり下りがあったりしてまるで山を登っているかのようだった




「って、ちょっとした山じゃねぇか……」




ちょうど黒い部分に差し掛かる部分は、坂になって見えなかった




坂を登り切って、あたりが見えるようになった




「ここは……墓場じゃねぇか……。どおりで誰もこっちへ来ないわけだ……」




墓場の駐車場へ続く道。しかし、カーナビ上ではその先に向こう側の道へ通じる細道があるように見える




しかし、現実にそこを見てみると、どう見ても墓の間を通る道で、道路ではないように見える




「ええい、ままよ!」




見つかったら怒られると思うが、疲れていたのでまたあの渋滞に戻る気もしなかった




少しでも早く帰るために、ナンマンダブと言いながら墓の間を通る




運良く、向こう側の道へは通行止めも無く行けそうだ




「っし、あと少しだ」




そこで、ふと左後ろが気になった




嫌な気がしたが、気になるものは気になる




すると、左後ろの窓から、誰かが覗いているのが見えた




「ぎゃーっ!」




こんな夜に、それも墓場に人が居るとは思えない




絶対幽霊だと思ってアクセルを踏む




サイドミラーを見ると、その人影はあっさりと離れていった




「……? もしかして、住職か誰かだったのか? やべぇかな、会社に電話されなきゃいいけど」




しかし戻る気もせず、そのまま突っ切る




こちらの道は空いていて、スムーズに帰れそうだ




「ちょっと休憩」




見かけたコンビニでコーヒーでも買おうと、中へ入る




「いらっしゃいま……ひっ!」




挨拶をして、こちらへ向いた男の店員が慌てて飛びのく




「? どうしたんすか?」




俺は店員が見た方向を見たが、何もない。さっきの事もあって、店員の冗談だと思いたい




「あ、ああ、あんたの肩に、ひ、ひとの首が……」




なんて嫌なことを言うのだろうか。まさか、俺の後ろじゃなくて俺の肩だというのか……




すると、ぼそりと声が聞こえた




「勝手に帰るな」

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