第549話 相合傘

私は今、玄関前で傘を差さずに雨の降る校庭を見ている




別に私が傘を特別忘れやすいとか、天気予報を見てないとかではない




午後からの降水確率が80%だったことは確認しているし、実は折りたたみ傘はカバンの底に仕舞ってある




なのに傘を差さずに玄関前に立っているのには訳がある




今日、私は日直で、もう一人の当番が私が好意を寄せている男子学生だった




中学校が一緒で、高校になってからなかなかクラスが同じにならず、やっと一緒になったと思ったらすでに高校3年生




さらに、1年生2年生で出来たグループ分けのせいで声を掛けられなかった




たまたま、何かの拍子に順番がずれて今日、彼と一緒に日直する事になったのだ




だから、私は傘を持ってきていないふりをした




ワザと日直の仕事が遅くなるようにして、彼より少し先に玄関前で立っている




帰りの方向が一緒なのは知っているし、私の家は彼の家より遠い




だから、もし彼が私に少しでも好意があれば、一緒の傘で……相合傘で帰れるかも……と計画していたのだ




雨が降るかどうかは運次第だったけれど、運命の女神も私に味方してくれたようだ




そうしているうちに、彼も玄関に来た




「あれ? 帰らないの?」




「傘を忘れて……。もう少ししたら止むかなって」




彼は玄関に誰も居ない事を確認した




「……じゃあ、一緒に帰るか? 帰り道は大体一緒だろ?」




「うん……」




計画通り……ニヤリ と、心の中で呟く




彼の傘は大きく、私と彼が一緒に入っても雨に濡れることは無い




「濡れないように、ゆっくり歩くね」




私は一緒に居る時間を出来る限り延ばす




しかし、私のささいな延長工作をあざわらうかのように空が晴れてきた




雨もぽつりぽつりと弱くなってきた




「これなら……」




彼は傘は要らないねと言おうとしたんだと思う




でも、彼の口はポカンと開いたままだった




「どうしたの?」




「それ……」




彼が指さしたのは私のスカート……の下から見える尻尾だった




「……ごめんなさい!」




私は、風邪で休んだご主人様の代わりに来た狐なんです……


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る