第529話 行くな

私の祖父は私が物心つくまえに、戦争で亡くなったそうです




アメリカの飛行機から機関銃の掃射を受けて、下半身が吹き飛ぶという、壮絶な亡くなり方をしたそうです




私が高校生の時、夜、家の古い縁側を歩いていると、後ろからギシギシと何かがついてくるような音がしました




振り向くと、下半身の無い青年が、体から垂れた内臓を引きずりながら匍匐前進で近づいてきます




「きゃー!」




私は悲鳴をあげ、立ちすくみました。すると青年は




「行くな……行くな……」




それだけ言って消えました




その後、悲鳴を聞きつけた母が来てくれたので、その話をすると




「もしかすると、お父さんかしらね?」




母によると、その青年の特徴が祖父と一致するようです




しかし私はそんなこと信じられず、何事も無かったことにしました




次の日、遊びに出かけた時、私は怪我をする事になりました




履きなれないヒールを履いて、ヒールがコンクリートの隙間にハマってバランスを崩し、ねん挫しました




そして、私が成人した時




当時付き合っていた男性の家に初めて遊びに行く事になりました




2階で着替え終わり、さあ出かけようとしてドアを開いた時、また上半身だけの青年が居ました




「行くな……行くな……」




「今日はデートなの! 絶対行くわ!」




2回目という事もあり、私は冷静に反論しました。前回の事を考えれば、忠告に従っておけばよかったのですが、その時の私は少し反抗心もあったのです




「行くな……行くなー!」




それを聞いた青年は、匍匐前進で私に近づき、足を掴もうとしてきました




私はとっさに逃げようとして、階段から落ち、怪我をしました




骨折はしていないようですが、歩くことは困難だったので、彼に電話しました




「ごめんなさい。足を怪我して、行けなくなっちゃった……」




「え? さっきまで元気に電話してたじゃ無いか。今日は大事な日だから来てくれよ」




そう言うので、私は少し無理してでも歩こうとしましたが、私の下半身は急に力を無くしたかのように立てなくなりました




「ごめんなさい……本当に無理みたい」




「どうしてそんな嘘を? ちっ、いつから気が付いたんだ? 俺が組の者だって知ったからだろ? くそっ、絶対警察に言うなよ!」




それだけ言うと電話は切れました。そして、その電話が切れると同時にどういう訳か下半身が動くようになりました。さらに、痛かったはずの場所まで痛みが無くなりました




しかし、その時はもう彼の家に行こうなどとは思えませんでした




その話を母にしたところ




「お父さんが守護霊になったのかしらね?」




それなら、もう少しわかりやすく伝えてほしいと、今度会ったら言おうと思います

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